第548話 【逆神家追放編・その9】狙われた逆神大吾! ~普通ヒロインがピンチになるはずなのに、サービスシーンまで親父で染めるクソ采配を見せるこの世界~

「いっけねぇ! 遅刻、遅刻ぅ!! なんつって!! いやー! あぶねぇ!! 危うく大惨事だったわ!! 最近なんかトイレ近いんだよなぁ! もしかして、新陳代謝が若返ってる!? いや、まあ今は小便してっから、出してるのはちんち」



 大変失礼いたしました。ブラウザバックはお待ちいただきたい。

 まだ開始100文字です。お待ちください。お待ちください。



 逆神大吾が日本探索員協会本部に拾われてから、約6時間。

 現時刻は夜の10時過ぎ。


 既に日勤の職員は帰宅しており、現在は夜勤へとシフトチェンジ済み。

 ダンジョンや異世界、モンスター出現等、普段からこちらの時間にお構いしてくれない案件と共に働いている探索員協会。


 必然的に夜勤の重要性も上がり、事務職員やオペレーター以外にも、探索員が多く本部にて交代制で待機している事はあまり知られていない。


 現在は非常時なので、役職が上へ行くほど残業している者も多い。


「久坂剣友! そろそろ帰った方が良い! あなたは今日、働き過ぎだ!!」

「ほうじゃのぉ。っちゅうてもな。修一や楠木のが頑張っちょるのを見てからお先! って言うのものぉ。ワシ、別に家帰っても寝るだけじゃし。家族なら同じ部屋で働きよるし。今日はこっちに泊まろうかいのぉ?」


「こちら、久坂監察官室の55番。庶務課に要請したい。久坂剣友が本日はこちらで待機したいと言っている。お手数だが、簡易ベッドを頼めるだろうか。久坂剣友はそれなりに高齢であるため、気を遣いたい。……感謝する!! 久坂剣友! すぐに寝床を私が作るので、せめて横になって欲しい!!」

「55の。ワガママ言うてもええか? お主、ワシが生きちょる間にのぉ。嫁さん貰うてくれんかいな? 親バカかもしれんがのぉ。こがいなええ男、なかなかおらんと思うんじゃ。じじいの相手させよるだけの青春なんて胸が痛むわい」


 このように、仕事を終えた久坂監察官も帰宅を遠慮する事態。

 警戒態勢がいつまで続くのかは分からないが、ご自愛して欲しい。


「マジかよ!! 協会本部って大浴場あんの!? へぇー! すげぇな!! で? 混浴? 違う? 残念だなぁ! へへっ、でも貸し切りじゃねぇか!! おっしゃ! 服脱いで! 体洗うか!! オレがどこから体洗うか、聞きたい? そりゃあもちろん! 股間のしん」



 大変失礼しました。先ほどから、電波が混線しております。



 割と快適な居候場所をゲットした逆神大吾。

 だが、この男に安息など与えて堪るかとばかりに、刺客がすぐそこまで迫っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふはははは! ヘムリッツ!! お前の作った『噴射玉ホバー』というのは実に良いな!! 煌気オーラをほとんど使わずに飛行が可能とは!! ふははははっ!!」

「ぶひひひっ。確かにこれは便利ですねぇ! ボク、普段は飛ぼうとしたら脂肪を燃焼させて推進力に変えないといけませんからねぇ!!」


「お気に召したようで何よりですよ。わたくし、ウォーロストに幽閉されても頭の中に設計図がありますからね。材料さえ頂ければすぐですよ。んっふっふ!」

「……姫島はどうした? あいつ、またどこかに無断で行きおったな。集団行動のできない男だ。嘆かわしい」


 ピースのイカれたメンバー、ひっそりと日本へ襲来していた。


 彼らは迷いなく日本探索員協会本部を目指し飛行中。

 なぜならば、元監察官の下柳則夫がいるからである。


 豚にも帰巣本能はあり、この男、普通に仕事ができたため記憶力も悪くない。

 完璧にかつての職場の位置を把握していた。なんと腹立たしい。


「しかし、反応が消えた逆神家の連中で、唯一残っていた者が協会の本部建物にいるとは。罠ではなかろうな?」

「際立った煌気オーラ反応がないため、むしろヤツらは油断しているかもしれません。五楼、雨宮、木原の反応がないのは好機でしょう。んっふっふ」


「ヘムリッツは実に優れた技術者だ! 高性能の煌気オーラ感知器を自作し、そこに日本の監察官のデータをすぐ取り込む事ができるとはな!! ふはははっ!!」

「それは下柳の協力も大きかったです。彼が長らく潜入してくれていたおかげで、多くのデータが残されておりましたので」


「ぶひひっ。ボクのデータはこちら! 腹部の脂肪の下に隠していたんですよねぇ! カルケルのサーチをも騙す、ボクの脂肪スキル!! 有用なんですよねぇ!!」

「ふ、ふははははっ! 勝てる! 勝てるぞ!! これならば負けん!! 逆神大吾! 貴様の首級で我らハーパー部隊の栄光への道は始まるのだ!! ふはははははっ!!」


 良い感じに負けフラグを立てたところで、協会本部が彼らの視界に入る。

 飛行速度を落とすことなく、彼らは敷地内に侵入した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いやー! 風呂上がりのビールうめぇー!! 南雲さん、優しいよなぁ! 謎の文字で書かれた、外国のビールくれんだもん!! 裸で歩いてたらさ、なんかバスローブまでくれたし!! 返さなくて良いとか言うし!! かぁー! うめぇー!!」


 湯上り姿の逆神大吾。

 本部建物を出て、中庭で晩酌中である。


 一応、本当に一応ではあるが、彼は警護対象。

 それなのに、建物から普通に出て、防具すら身に付けず、護衛もなく飲酒するという、危機管理マニュアルをすべて無視した優雅な時を過ごしていた。


 ちなみに、仕事が終わって五楼姓を返上した南雲京華さんはとっくに帰宅済み。

 本日予定されていた各国との調整業務を終えた旦那が「ここは私に任せてください!! もう、帰ってもらって大丈夫なので!!」と、逆神大吾にアレルギーを起こした妻を定時で自宅に戻らせる名采配をキメる。


 「パインサラダを作っておくから、修一も早く帰れよ」と言って、京華夫人は手を振った。



 南雲修一に立ち上がる死亡フラグ。なにゆえ世界は大吾をスルーするのか。



 そんな修一は現在、監察官室へと引き上げて作戦行動の立案中である。

 片手にはコーヒー。反対側には山根健斗Aランク探索員が座ると言う、完璧なお仕事バトルフォーム。


「山根くん」

「なんすか? 南雲さん」


「いや、君の結婚式の予定が変わっちゃって残念だったなって」

「ホントっすよー。新婚旅行の予約キャンセルしようとしたら、春香さんにガチギレされたんすよ? どうしてくれるんすか」


「あ。そうなの? それは悪いことしたなぁ。でも、君たちってどっちもオペレーター班の中核だからなぁ。なかなかお休みあげられないんだよね」

「うーっす。お気遣いに感謝っす! 春香さんには今の上官のセリフ送っとくす!」


「ヤメてくれる? 今セリフって、君ぃ。私が君たちに休みあげない上司が10割じゃん。私のお気遣いどっかに行ってるじゃん。どうして君は日引くんの中の私の好感度下げるの?」

「えっ!? だって! 同じ職場で夫婦になるんすよ? ここは上司の悪口で盛り上がるのがベターじゃないっすか! 嫌ですよ、自分! 南雲さんって良い人だよね! とか言いながら、ベッドで2人並んで寝るの!!」



「なんで私の話しながら行為におよぶの!? やーめーろぉーよー!! なんかすっごい嫌だよ、それ!! ちゃんとやらしい話しなさいよ!!」

「南雲さん。人の嫁さん捕まえて、夜の営み想像すんのヤメてもらえます? セクハラとパワハラと気持ち悪いハラっすよ。……あっ」



「気持ち悪いハラってのはなに? ついに創作ハラスメントで私を貶めるの? 山根シェフの気まぐれハラスメントじゃん。というか、どうしたのよ? 日引くんからまたラインでも来たの?」


 山根くんはカタカタターンと端末を操作して「あー。間違いないっすね」と頷いた。

 「なに? 日引くん怒ってる? もう山根くんも帰る?」と気を遣っていた南雲監察官に、凶報が知られる。


「上空に煌気オーラ反応が3体。あー。もうゴリゴリ攻撃してる。結界の破損率、うっわ。62パーセント。南雲さん。突破されるまで、あと2分半ってとこっす!」

「……山根くん。大吾さんの現在地をモニターに出してくれる?」


 メインモニターに黒いマークが付き、矢印で「人間のクズ」と表示される。

 この処理を行ったのは京華夫人。暇だったらしい。


「ビンゴっすねー。侵入者と大吾さんの位置関係、超近いっす」

「警報出してくれる? 他の職員が近づいて怪我でもしたら大惨事だよ」


「誰に対応させるんすか? 正直、今出られる部隊っていないっすよ」

「……私が行くよ。ああ。京華さんにまた怒られる。これ、日が変わるまでには帰れないなぁ。京華さん、営みがない日が続くとさ。本当に寝かせてくれないのよ」


「あー。そーゆうのあるっすよねー。うちもっす。結構キツいんすよね、翌朝」

「ねー。男って意外と体力ないよね。あ。攻撃始まってる。避難勧告出たよね? じゃあ、私行ってくるよ」


「うーっす。お気をつけてー」


 元祖苦労人。南雲修一監察官。

 2代目苦労人のあっくんに「若い者にはまだ負けないよ!!」と言わんばかりに色々と背負いこむ。


 お排泄物を拾って来た責任を取って、深夜労働へと出陣準備を開始。

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