第348話 逆神六駆&小坂莉子VS4番グレオ・エロニエル

 4番グレオ・エロニエルは、確信した。


「おい、てめぇ。ナグモに力を与えたのも全部、てめぇの仕業だったってことか」

「あららー。これ以上はさすがに誤魔化せそうにないですねー。さすが上位ナンバー! ええと、いくつくらいですか? 2くらい?」


 4番は「くっくっ」と笑いを嚙み殺して答える。


「過剰な評価をありがとよ! オレぁ4番! グレオ・エロニエルだ!!」

「エロ! うわぁ! すごく攻めた名前をしてるんですね!!」



「てめぇ、今、北欧の方のかなりの人間を敵に回したぜ?」

「今の発言は全部、南雲さんが言えって指示出してました!!」



 南雲修一と加賀美政宗は未だ、氷の地下1階から出てくる気配がない。

 加賀美は煌気オーラを使い果たし、既に戦力になれないと判断した上でのステイ。


 一方、南雲修一は。

 彼にはまだ戦えるだけの煌気が残っている。



『南雲さん! ね、もう一回言ってもらえます? ……力と言うものはってヤツ!!』

「やーめーろーよぉぉー!! もうそっちに帰りたくない!! 私はもう、キュロドスに住む!!」



 ただし、精神が非常に不安定な事になっていた。

 「スキルはメンタル勝負」とは六駆のモットーであり、ある意味ではスキル使いの全てでもある。


 こんな、ちょっと突いただけでバラバラになりそうな雪まつりが終わった後の雪像みたいなコンディションでは、とても戦いについて行けないだろう。

 代わりに、サーベイランスが六駆の元へと飛んでいく。


『五楼さん、ひとしきり南雲さんいじったんで、準備オッケーっす!』

『ヤメてやってくれ。あれでも、結構良いヤツなんだ。ナグモは……。いや、南雲は』


 山根からサーベイランスを引き取った五楼京華は、日本探索員協会の上級監察官として逆神六駆に命令を下した。


『逆神。目の前にいる4番を生け捕りにしろ。殺すな。逃がすな。できるか?』

「それはですねぇ、うふふ。何て言うか、報酬次第かなって!」



『痴れ者が……。100万の束がここにある。……もう1つ! さらにもう1つ!!』

「う、う、うひょー!! 300万ですか!? えっ、それって1万円何枚分ですか!?」



 300枚分である。


 目も眩むような報酬が提示された以上、逆神六駆の準備は万端。

 思えば、彼の力を隠しながら苦しい進軍を続けて来た急襲部隊。


 それはこの時のため。この瞬間のためにあったのかもしれない。


「莉子! 一緒に4番さんを倒そう! 一気に決めるから、ついて来れるね?」

「わぁ! うんっ! 六駆くんの足手まといにならないようにするよぉ!!」


 2対1が卑怯だとは、この場の誰も口にしない。

 戦いに綺麗も汚いもない。


 勝った者が正義であり、勝った者が望みを叶えられるのだ。


「……てめぇの本当の名前は?」

「まあ、特別に教えてあげましょう! 僕は逆神六駆と言います! Dランク探索員です!! 短い間ですが、よろしくお願いします!!」


 4番は呆れたように笑った。

 「Dランクってなんだよ」と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「莉子!!」

「はいっ! やぁぁぁぁっ!! 『苺光閃いちごこうせん』っ!! 出力10パーセント!!」


 戦いの火蓋は苺色の破壊光線で切って落とされた。

 これは、いきなり決まってしまったか。


「くぅぅぅっ!? そっちの小娘! お前かよ! デスターに無茶苦茶な砲撃しやがったのは!!」

「おっ! すごい! 莉子の『苺光閃いちごこうせん』を上手に弾きましたね! なんですか、それ。盾スキルですか?」


 4番グレオ・エロニエルのスキルは派手なものではない。

 氷を自在に操る6番の方が、よほど強者に見えるだろう。


 彼は、剣と盾を具現化して戦う。

 そのシンプルな戦闘スタイルで4番の座まで上り詰めたのだ。

 当然のことながら、剣も盾も実に強力。


「てめぇの質問に答える義務はねぇなぁ! 『クラッシュ』!!」

「おっと! 危ない! 良いスキルですね! 莉子、こっちへ!! 『銀色包壁アルミホイル』!!」


 4番の剣は中距離から遠距離を得意とする、特異な具現化スキル。

 名前を『グラム』と言い、北欧神話に登場する伝説の剣から名を取っている。


 『グラム』から放たれるのは、煌気オーラの斬撃。

 それは先ほどの『クラッシュ』のように無数の同時攻撃の形を取る事もあれば、真空波のように離れた敵を真一文字に叩き切るものまで、多彩な変化を見せる。


「ふぅぅぅぅんっ!! 『豪雪フィンブル大竜砲ドラグーン』!!」

「ちぃっ! やっぱり古龍のスキルの黒幕はてめぇじゃねぇか!! 『ヒルドル』!!」


 先ほど『苺光閃いちごこうせん』を弾き、たった今『大竜砲ドラグーン』を食べるようにかき消した盾の名前は『ヒルドル』と言う。

 スキルを「弾く」と「呑み込む」事に特化した盾であり、弾けば煌気オーラを大量に消費する代わりにどんな攻撃でも防ぎ、呑み込めば失った煌気オーラを補充できる万能の盾スキル。


「意外だなぁ! アトミルカさんって正攻法で戦う人はいないイメージだったのに! 4番さん、あなた普通に強いですね!!」

「それは褒められてんのか? あいにくと、オレぁ属性を付与させるのが苦手でな! 結果、こういうシンプルなスキルしか使えなかっただけさ! 『ブレイク』!!」


 4番の放った巨大な刃が六駆と莉子に襲い掛かる。


「莉子! 防御を任せるよ!」

「分かったよぉ! やぁぁぁぁっ! 『風神十手エアロセイバー』!! 一刀流! 『次元大切断じげんだいせつだん』!!」


「マジかよ。小娘まで剣技が使えんのか!?」

「隙ありぃ!! 『龍剣ドラグソード』!! 古龍一刀流!! 『冥竜撃墜めいりゅうげきつい』!!」


 もはや隠す必要のなくなった六駆は、自分の中で温めておいたスキルを繰り出した。

 『龍剣ドラグソード』はホグバリオンを『観察眼ダイアグノウス』を使い隅々まで分析して、六駆の煌気オーラで具現化した刀。


 『光剣ブレイバー』よりも切れ味が鋭く、頑丈にできている。

 その分、一撃を放つ所作は『光剣ブレイバー』を用いた時よりも遅くなる特徴もある。


「くっ、ぐぁぁぁ!! こりゃ、闇属性か!? まだ、やられるわけにゃ、いかねぇんだよなァ!! いくぜいくぜぇ! 『クレスセンテ』!!」


 三日月のような湾曲した斬撃を繰り出した4番。

 六駆の『冥竜撃墜めいりゅうげきつい』と相打つ形となり、激しい閃光がほとばしる。


「いやぁ。参ったなぁ。本当に強いぞ、この人」

「どうしたァ? 逆神六駆!! もう打つ手なしかぁ!?」


「そんな訳ないじゃないですか! あなたを無傷で捕まえるのは難しそうだなぁと思っていただけですよ!!」

「ははあっ! とんでもねぇ小僧がいたもんだぜ! 下柳のブタ野郎、どうしてこいつのデータを取ってねぇんだよ! 使えねぇなぁ!!」


 4番は徹底して接近戦を避ける。

 これは、数の不利を解消するための策でもあり、彼が必殺の一撃を放つための間合いでもあった。


 一般的には複数を相手にする際、半端に距離を取ると砲火を集中されてしまう恐れがあり、無条件で推奨はできない。

 だが、4番には無敵の盾スキル『ヒルドル』がある。


 この盾がある限り、遠距離攻撃であればほとんど全てのスキルを無効化する事が出来る。

 もちろん限界はあるが。


 例えば、六駆が本気の『大竜砲ドラグーン』を撃てば、『ヒルドル』は耐えられるだろうか。

 やってみなければ分からないが、相手がこの逆神六駆である事を考えるとリスキーな賭けになる。


「莉子。『苺光閃いちごこうせん』を囮に使いたいんだ。僕が飛んだら、すぐに僕の背中に向けて撃ってくれる?」

「うんっ! 六駆くんなら絶対に大丈夫だって信じてるから!」


 六駆は勝利のパターンを脳内で構築していく。

 こと戦闘に至れば、彼の頭脳は戦いの遺伝子により活性化する。


 普段は二次関数を見ただけで失神するくせに。


「逆神! てめぇだけはオレが責任もって、ここで殺す!!」


 4番も必殺の構えに入る。

 どうやら、勝負は次に刃を交えた瞬間に決するようだった。


「行くよ、莉子!! ふぅぅぅぅんっ!! 『竜翼ドラグライダー』!!」

「はいっ! やぁぁぁっ! 『苺光閃いちごこうせん』!!」


 六駆が文字通り、飛び掛かった。

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