第339話 南雲修一、新世界の神に認定される

 3番クリムト・ウェルスラーは再びデスターの外壁に背中から叩きつけられて、静かに考えた。


「これほどまでの高出力の煌気オーラ……。コントロールするだけでも、達人並みの使い手が10人は必要。それをたった1人で運用し、あまつさえ竜人と同系統の属性……。どう考えても、南雲修一と言う男……人間のレベルを超えている……!!」


 南雲修一、ついに人間をヤメさせられる。


「この私が全力を出しているにも関わらず、押されている……。それどころか、途端に弱くなったふりまでして……おちょくられているとは」


 そっちがありのままの南雲修一である。


「こんな事ならば、戦闘用の『圧縮玉クライム』を持って来るんでしたね。標準装備の『圧縮玉クライム』では、ナグモに傷ひとつ付けられないでしょう」


 『フライシザーズ』だけで7回くらい南雲は倒せる。


「ないものを嘆いても仕方がありませんね。あるもので工夫し、難局を乗り越えてこその科学者。ふっふふ……。いいじゃないですか。心が躍りますね」


 3番は立ち上がると、既に床に設置しておいた『圧縮玉クライム』を起動させる。

 四方から火柱が上がり、その炎は3番の意のまま、自在に操る事が出来る。


「南雲さん! 頑張って! なんかすごいのが出てきましたよ!!」

「見たら分かるよ! なんだね、あれは!!」


「見たところ、煌気オーラを直接炎に変換してるみたいですね! それなりの出力ですし、装備を介していないから威力は保証しますよ!!」

「敵の攻撃の威力保証してるんじゃないよ、君ぃ!! 私の身の安全を保障しなさいよ!!」


 六駆は「大丈夫ですって」と言って、久坂の背中の傷痕を見る。

 彼のコピー版『黄色い向日葵の黄色ホカホカイエロー』では、傷を修復できても傷痕までは消せなかった。


「久坂さん、本部に戻ったら和泉さん辺りに傷痕を消してもらってくださいね。僕、ご存じだと思いますけど回復スキルって苦手なんですよ」


 すると久坂は「ひょっひょっ」と笑う。


「ええんじゃ! 世話になってしもうたのぉ、六駆の小僧! ワシの体にゃあようけ傷痕があるけぇ、別に今さら大きいもんが1つ増えたくらい気にならんわい」

「し、しかし久坂剣友!」


「そがいな顔をせんでええ。55の。ワシは意外とこの傷痕、ちゅうても見えんが。傷痕はええ思い出になると思うんじゃ。ワシの家族を救うた証拠じゃろう?」

「た、確かにそうかもしれん!!」


 目に涙を浮かべた55番は、久坂に抱き着く。


「おーおー。よさんか! ええ年した者が、恥ずかしいじゃろうが!!」

「私は自分が制御できない! 許してくれ、久坂剣友!!」


 迷惑そうに文句を言いながらも、久坂は久坂で嬉しそうであった。

 六駆も「うんうん」と満足そうである。


「おおおい! こっちはクライマックスなんだけど!? 逆神くぅん!! 自分の師匠にこんな事言いたくないけどさ! 怪我治したんなら、お年寄りは放っておいてこっち手伝って!!」


「聞きました? 久坂さん、年寄りは捨て置けですってー」

「嫌じゃのぉ。この高齢化社会でそがいな事を言うのが自分の弟子じゃと思うと悲しゅうなるわい」

「確かにそうかもしれん!!」



「この4つの炎は全て火炎属性です。ナグモ。あなたの駆使する古龍のブレス攻撃。その属性に合わせました。さあ、出力勝負と行きましょうか!!」

「ほらぁ! なんか始まっちゃうからぁ! 逆神くぅん!! 10万円あげるからぁ!!」



 六駆は素早く南雲の方を向き、端的に指示を出す。


「南雲さん! 両手を合わせて、3番さんに向けてください! ドラゴンボールのかめはめ波みたいな感じで!!」

「なんで君が代わりに戦うって展開にならないのかな!?」


「御託は聞き飽きました、ナグモ。あなたとのお喋りは、私のサンプルとしてラボに迎えてからいくらでもできますからね。首から先は培養液でちゃんと生かして差し上げますよ」

「ヤダ! なんかすごく怖いこと言ってる!! 仕方がない! 逆神くん、信じるからな! こ、こうか!?」


 南雲、かめはめ波のポーズを完了させる。

 それを見届けた六駆は、次の指示を出した。


「では、煌気オーラを集中させて放出してください! 探索員の基本スキルの、何でしたっけ? ああ、『ライトカッター』だ! あの感じで大丈夫です!」

「よし! 分かった! てぇりゃあ!!」


 グオオオオオンと南雲の両手が吠えた。

 その咆哮が鳴き止む前に、3番も炎の4柱を1つに纏めて南雲を狙う。


「この炎の柱は! 1本があなた方のSランク探索員が放つ必殺技に相当する威力! その4倍をどう受け流しますか!? ナグモぉ!! ん? おかしい……」


 3番は『四炎柱大砲フォースフレイム』とスキルの名前を叫ぶよりも先に、違和感を覚えた。

 スキル同士の衝突した手応えがまるでないのである。


 仮に自分の放ったスキルがあまりに強大過ぎても、達人の域のスキル使いならば、わずかな感触を察知できる。

 だが、それがまったくない。


「……ばっ!? バカな!? 私のスキルを飲み込んでいる、だと!?」

「逆神くん、逆神くん、逆神くん!! どうなってんの!? ねえ、これどうなってるん!? 止まらないんだけど!? 逆神くん! おおい!!」


 六駆は南雲の手から放出される古龍のブレスと、それに呑み込まれようとしている3番。

 さらに自分が何をしているのかよく分からない南雲。


 その全ての説明を少し大きな声で行った。



「そのスキルの名前は『幻竜げんりゅうジェロードほう』! 無属性のブレスを前にして、火炎属性で撃ち合おうなんて片腹痛い! 無属性は他の属性を呑み込むのだ、この愚か者め!! ……って、南雲さんが言ってます!!」



 3番の『圧縮玉クライム』にひびが入る。

 無属性のブレスへの対応など、さすがの彼も想定していない。


 無属性の煌気オーラ自体が極めて希少であり、そんなレアケースにまで備えるのは非効率だからである。

 が、備えあれば憂いなし。それに尽きる。


「くぅっ!! ぐ、ぐあぁぁぁぁっ!! なんと言う力だ! な、ナグモぉぉぉ!!」

「いや! 違うんですよ! 私、こんなスキルだなんて知らなくて!! 違うんですよ!! うわぁぁぁぁ! 止まらない! なんで止まんないの、逆神くん!?」



「当たり前じゃないですか! 『幻竜げんりゅうジェロードほう』は敵を焼き尽くすまで止まりませんよ!!」

「バカ! 君は本当にバカだなぁ!! 3番が死んじゃうじゃない! 止めてあげて!!」



 その後、南雲による「5万円追加するから!!」と言う高度な交渉により、六駆が『貸付古龍力レンタラドラグニティ』を解除して『幻竜げんりゅうジェロードほう』は止まるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 無属性の炎に焼かれながら、3番クリムト・ウェルスラーは考える。

 思考を放棄すれば楽になれるものを、それは彼の科学者としてのプライドが許さない。


「む、無属性!? あり得ない! 人間が属性の理から抜け出すなど……! しかも、イドクロア加工物を使ったのならばまだ納得はできる……! だが、ナグモは生身……!! まさか、あの男は……!!」


 3番は1つの仮説にたどり着く。

 その仮説はこれまでの疑問を全て解決するだけの説得力があり、むしろそうでなければもう意味が分からな過ぎて頭が痛いと彼は思った。


「ナグモ……。あの男は、もしかすると……。——神?」



 南雲修一、ついに神になる。



「神ではないにしても、それに近い何かである事は間違いない! あの男は、人ではないのだ! こ、この情報は持ち帰らなければ……!!」


 3番はアトミルカを支える科学技術局の局長。

 その責務を果たすため、意味のある撤退を選んだ。


「ナグモ……! あなたのデータは収集しました! 次に会う時、それは神を殺す時です!! 777番くん、手を伸ばしなさい! 【稀有転移黒石ブラックストーン】!!」


 逃げに徹する3番を追撃するのは至難。

 彼は、倒れ伏している777番を回収して、戦いの場から撤退した。

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