第338話 古龍の戦士・ナグモ、再臨する

 777番は倒れた。

 だが、まだ問題は残っている。


「ふぇぇ。『太刀風たちかぜ』や『風神十手エアロセイバー』じゃこのバリア、割れないよぉー!」

「うにゃー! それどころか、跳ね返ってくるぞなー! 助けて加賀美さーん!!」


「下がって椎名さん! てぇりゃあ! 守勢九式! 『朧鷲おぼろわし』!!」


 莉子の放った『太刀風たちかぜ』が跳ね返って来たので、加賀美が全力でそれを相殺した。

 一撃の威力ならば芽衣の『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』もそれなりだが、彼女は既に戦いを終えて煌気オーラの残りが心許ない。


 小鳩と雲谷が物理で殴っているが、びくともしない。

 『苺光閃いちごこうせん』を使えばまず間違いなくバリアドームを破壊する事はできるが、莉子には六駆の教えが根付いている。


 「必殺技の乱用は禁物。特に、まだ敵が残っている場合は要注意。対策を立てられちゃうからね」と歴戦の雄であるおじさんが言っていた。

 莉子は既に、デスター突入時に1度。

 777番戦で1度。合計2発の『苺光閃いちごこうせん』を放っている。


 これ以上は、頼りになる師匠の指示を仰ぎたい莉子さん。


 そんな折、ドームを覆っていた白い靄が晴れていく。

 どうやら、777番の煌気オーラ供給が途切れた事に起因するようである。


「みみみっ。視界良好になったです! もしかして、しばらく待てばドームもなくなるです?」

「木原さんの言う通りかもしれないね。ひとまず、自分たちはこれ以上の煌気オーラ消費を避けるべきだろう。倒す相手はまだいるのだから」


 芽衣が「みみっ」と加賀美に応じる。


 完全に靄が晴れて、六駆と南雲の姿が彼らにも見えるようになった。

 が、それも束の間。

 信じられない光景を急襲部隊は目にする。


「えっ!? お、お師匠様!? どうして……!? け、怪我をされているんですの!?」


 小鳩の顔が真っ青になる。

 彼女にとって、久坂剣友は絶対無敵の師匠であり、相手が喩え六駆であっても負けたりしないと考えていた。


 そんな彼が、力なくうつ伏せに倒れていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「逆神くん!!」

「分かっています! 55番さん、ちょっと失礼!! 久坂さん、生きてますか!!」


 久坂は弱々しいが、ハッキリと受け答えに応じた。


「……勝手に殺すんじゃないわい。じじいっちゅうもんは、なかなか死なんと家族をやきもきさせるくらいの……生命力を持っちょる生き物じゃけぇ……」

「減らず口を叩く割には重傷ですよ! と言うか、この透明な刃! こいつ、煌気オーラを吸い取ってるな! ふぅぅぅん! 『光剣ブレイバー』! 一刀流! 『撃墜げきつい』!!」


 3番の左手に持つメタルナイフから伸びていた透明の刀身を六駆が叩き折る。


「さ、逆神六駆! 久坂剣友は助かるのか!?」

「もちろんですよ! 僕が死なせません! だって、お小遣いくれるおじいちゃんが死ぬのは世界の損失ですからね! そうでしょう?」


「た、確かにそうかもしれん!! 私にできる事なら、何でも協力させてもらう!!」

「じゃあ、久坂さんを抱きかかえておいてください! とりあえず煌気オーラの補給をしながら治療しますから! 左手は『注入イジェクロン』!! 右手に『黄色い向日葵の黄色ホカホカイエロー』!!」


 時々言っておかないと忘れられそうなので、確認しておこう。

 逆神六駆は千のスキルをマスターした男である。


 つまり、スキルの模倣はお手の物。

 彼は雨宮順平の再生スキルを見ただけでコピーしていた。


 もちろん、オリジナルの方が効果は優れているものの、コピー版でも雨宮の再生スキルは極めて優秀。

 失われた煌気オーラを注ぎ込みながら、外科的治療も行う六駆。


 しかし、回復のために背を向けている彼を放置しておくほど3番は甘くない。


「まったく。老人に寄ってたかって、実に非効率ですね。見苦しい。死になさい」


 3番はフライシザーズを再び手に取り、煌気オーラ主砲の充填を始めた。

 かの装備は六駆が「すごい」と認めるほどの逸品であり、その主砲は『大竜砲ドラグーン』に肉迫する威力を誇る。


「逆神くんは久坂さんの治療を続けてくれ! ここは私がどうにかして見せる!!」

「ほう。ようやく真打ち登場ですか。待ちくたびれましたよ。ナグモ!! 喰らいなさい! 『シザーズブラスト』!!」


 南雲は『双刀ムサシ』を実体化して、煌気オーラを全開に高める。


「うぉぉぉぉ! 『大曲おおまがりきつね嫁入よめいり』!! ぐぅぅっ! だぁぁぁりゃ!!」


 彼は双刀を用いた受け流しスキルの奥義で、どうにか『シザーズブラスト』の進路を変更させる事に成功する。

 少しばかり軌道の逸れた高エネルギー弾は、デスターの外壁を突き抜けてキュロドスの空に消えていった。


 ここで3番は怪訝な顔をする。

 首をかしげて、南雲に問いかけた。


「ナグモ。あなた、弱くなっていませんか?」


 3番ほどの実力者になれば、相手の力量は一度の手合わせで把握できる。

 そんな彼が認めた南雲修一。


 演技をしている様子も見受けられない彼の技量に、3番は訝しむ。


「くっ。やはり、久坂さんが不覚を取った相手……! 私などでは足止めすらできないか……!!」


 そんな南雲の無念に満ちた声を聞き届ける、戦場の神。

 だが、神は神でも逆神である。


 つまりは神の逆。よって悪魔。

 悪魔が南雲修一に力を与える。



「いっけね! 忘れてた! はい、南雲さん! 『貸付古龍力レンタラドラグニティ』!! ふぅぅん!」

「う、うわぁぁぁぁ!! ちょ、ヤメろよ、逆神くぅん!! うわぁぁぁぁ!!! 力が溢れて来るぅぅぅぅ!! えっ、ヤダ! 怖い、怖い!! ひぃやぁぁぁぁ!!」



 古龍の戦士・ナグモ。

 再び戦場に降臨する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「素晴らしい! そう! それですよ! ナグモ! まさか先ほどの苦戦が演技だったとは!! 大した役者ですね! 私も完全に騙されてしまいましたよ!!」

「ち、違うんだ!! 話を聞いてくれ!!」


 南雲は手の平を3番に向けて、「待った」のポーズを取る。

 すると、意図しない古龍の煌気オーラがそこに集約され始めた。


「あ、あれ? う、うわぁぁぁぁ! なんか出るぅぅぅぅ!!」

「なっ!? ぎぃぃっ!? ぐわかぁぁぁっ!!」


 南雲の手の平から無属性のブレスが放たれた。

 さながら、六駆の『大竜砲ドラグーン』そのものである。


「さ、逆神くぅん!? なんか私の意図しない攻撃が勝手に出たんだけど!?」

「そりゃそうですよ! 今の南雲さんは古龍の煌気オーラが18南雲くらい装填されてますから! マグカップに2リットルのコーラを注ぎ続けたらどうなります?」


「なんてことするんだ!! 人を殺してしまうところだったじゃないか!!」

「ちなみに、今のは『手の平ポケットジェロードほう』です!!」



「もう一回だけ言うよ? なんてことするの!?」

「南雲さん。力なき正義は無力なんですよ。覚悟を決めてください!」



 南雲は「力があり過ぎる正義は狂気なんだよ!! 正気も疑われるの!!」と叫ぶ。

 「あ、上手いこと言うなぁ!」と六駆。


 「修一。輝いちょるぞ!」と久坂。



 久坂剣友、実はすでに完全回復していた。



 だが、戦線は既に南雲のものになっていたため、戦士のエチケットとして手を出さずに観戦している。


「ああ! 久坂剣友! 無事で良かった!!」

「ひょっひょ! お主みたいに未熟な小僧を遺しちゃあ逝けんけぇのぉ!」


「確かにそうかもしれん!! ああ! 神よ、感謝する!!」

「ヤメてくださいよー。僕は当たり前の事をやっただけですってー!」


「おおおい! こっちに当たり前じゃない事してるんだぞ、君ぃ!!」

「ははっ! 見て下さい、久坂さん! 南雲さんったら、あんなにはしゃいじゃって!」

「ひょっひょっひょっ! 修一、五楼の嬢ちゃんも多分見ちょるでー!」


 騒いでいると、瓦礫の中から3番が起き上がった。

 額からは血が流れている。



「私がこの身を傷つけられたのは久しぶりですよ。ナグ」

 3番が言い終わる前に巨大な煌気オーラの咆哮が彼を襲う。



「う、うわぁぁぁ! すみません! 攻撃されるのかと思って咄嗟に手を出したら!! 『手の平ポケットジェロードほう』が勝手にぃ!! 違うんです! 違うんですよ、これは!!」


 敵にはセリフを口にする事も許さない、古龍の戦士。

 名をナグモと言う。

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