第337話 急襲部隊VS777番
久坂剣友が3番クリムト・ウェルスラーと激戦を繰り広げている一方で、777番とチーム莉子および加賀美政宗、雲谷陽介の戦いも始まろうとしていた。
まず777番は『
これは、彼が引き受けた「ナグモ以外」の者に3番の研究を邪魔させないための措置である。
もちろん、敵の思惑に行儀よく従う必要はないので、まず雲谷がライフルを具現化して躊躇なくバリアドームの壁に向かって煌気の弾丸を連射した。
「ははっ、こりゃダメだ。俺ごときの
3番の作るイドクロア加工物は、協会本部とは異なる技術で製造されている。
そのため、探索員の常識が通用しない場合が多い。
対して、3番は探索員を念頭にイドクロア加工物を作るので、より状況を優位にできるものが多い。
このアドバンテージは努力などでは覆せない。
「莉子ちゃん、どうするにゃー?」
「みみっ。選択肢は2つです。みみみっ」
「そうですわね。恐らく、莉子さんの中では既に決まっているに違いないですわ!!」
2つの選択肢。
南雲と六駆の救援が来るまで耐える防御に専念した戦い方か、南雲と六駆の救援に向かうために777番を倒してバリアドームの外へ出るための攻撃に特化した戦い方か。
どちらを選ぶかは、リーダーの小坂莉子に委ねられる。
「この人を倒しましょう! 大丈夫です! わたしたちなら負けません!」
莉子は即答した。
彼女は逆神六駆の弟子である。
六駆は「危険がある場合は慎重に戦うように」と言うが、「何もしないで防御に徹して正気を失くすな」とも教えている。
莉子は冷静に777番を分析した。
もしも莉子が単身で戦うシチュエーションであれば、彼女は躊躇しただろう。
彼女はどちらかと言えば石橋を叩いて渡るタイプである。
だが、今は頼りになる仲間がいる。
つまり、橋を叩く手間を省き、仮に崩れそうになるのなら仲間と手を繋ぐことで対処できるのだ。
「前衛は小鳩さんと芽衣ちゃん、お願い! クララ先輩と雲谷さんは後方から援護を! 余裕があれば、もう少しこのドームを壊せないか試してみてください! 加賀美さんはわたしの周りで壁になってもらえますか?」
この指示だけで、莉子の狙いを全員が理解した。
要するに、こういうことになる。
『
ここまで来れば出し惜しみはなしである。
アトミルカ側にも『
だが、この考え方には大きな相違点があった。
アトミルカ側の考察についてである。
アトミルカは『
間違いなく武器を用いた砲撃。
あるいは、彼らの乗って来た要塞の主砲によるものか。
いずれにしても、まさか人間があんな狂気に満ちたスキルを撃てるとは考えていないのである。
逆神家三代の知恵を絞った悪魔のスキル。
それを十二分に使いこなせる煌気総量を持った稀代の天才少女。
この2点のヒントがなければ、答えにたどり着けと言うのは無理な話。
六駆に因数分解の問題を答えろと言うのと同義である。
「雑兵どもは私が片付ける。『
777番のド派手な号砲で、チーム莉子の戦闘が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『
竜人のブレスに限りなく近く、殺傷のみに目的を設定しているため厄介極まりない。
防御スキルも半端なものは簡単に破壊されるため、一度撃たれると対処を誤れば大惨事になる。
「くっ! これはわたくしでは受け切れませんわね! せめて勢いを少しでも殺しますわ!! 『
「みみみみっ! 『
小鳩と芽衣のコンビネーションでも『
だが、彼女たちもそれを承知で対応している。
小鳩の『
そうなれば、『ホトトギス』を構えているSランク探索員の出番である。
「……守勢零式。『
加賀美政宗の竹刀で薙ぎ払われた砲撃は、無数の雀になって散り散りになる。
777番は両肩に二門、両手に一門ずつの合計4つ『
まさにフルアーマーと呼ぶに相応しい超攻撃的重装備。
それは彼の自信の表れであり、防御は捨てても問題ないと言う判断だった。
「うにゃにゃー! 『
「ふふっ、椎名さんも本気だね。なら俺も。『
クララの銀弓から放たれた多属性の矢は、一瞬だが777番を怯ませる。
だが、彼の実力であればクララの狙撃には容易な対応が可能。
しかし、怯んだわずか1秒の油断が、急襲部隊の曲者に食いつかれる。
雲谷陽介は基本的に雨宮上級監察官室で学んだスキルを用いて戦う。
その基礎スキルだけでも充分な威力を発揮するし、狙撃と言う目的は果たせるからである。
だが、彼も1つだけオリジナルスキルを持っていた。
狙撃手になる前はアタッカーだった雲谷。
剣も使ったが、当時から銃が手に馴染んでいた彼は、困った時のとっておきにトリッキーなスキルを編み出していたのだ。
『
一度放たれた
二度跳ね返れば2倍に。三度跳ね返れば4倍に。
「ぐぁっ! な、なんだこの意味の分からないスキルは!? どういう理屈だ!?」
「ふふっ、理屈なんてないんだよなぁ。ははっ、面白そうだったから作っただけだからね。ふ、ふふ、ふふふっ」
既に777番の周りで六度跳ね返った跳弾。
どうやらその辺りが雲谷の煌気総量では威力を増す限界だったようだが、777番には予定外、想定外のダメージを与えていた。
「くっ、両肩の『
長く蛇腹のような武器は、鞭のようにしなる。
器用にそれを操り、雲谷の『
『
ならば、前衛が息を吹き返す。
「芽衣さん! わたくしの『
「みみっ! 『
「こ、こいつ! 小癪な真似を! 小娘どもが!!」
小鳩と芽衣のコンビネーションは完璧だった。
そして、忘れた頃に飛んでくるクララの矢。
これがまた、非常に777番をイラつかせた。
チーム莉子の連携はもはや部隊として完璧に近い仕上がりを見せている。
そうなると、加賀美はただ莉子の壁役に徹すれば良いし、雲谷に至っては薄ら笑いを浮かべて戦局を眺めている事が許される。
「発射口を狭めて……。できるだけ、細く。建物にも被害を出さないように……」
「リーダーの小娘は何をぶつぶつと! ふ、はは! それが日本の念仏というヤツか! 死ね! 『
「小鳩さん、芽衣ちゃん!!」
莉子が叫んだ。
「芽衣さん! 危険ですわ!!」
「みみみみっ! 脱兎のごとく戦線離脱です!! みみみみっ!!」
「やぁぁぁぁぁっ! 『
「——なっ!? は、はあああ!?」
細く集約された熱線が、777番の装備を焼き切った。
苺色は全てを塗りつぶすのである。
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