第330話 人工島・ストウェアからの援軍
フォルテミラダンジョンの入口には、雷門善吉が連れて来たストウェア滞在中の監察官2名、そして上級監察官が待機していた。
イギリス遠征組はまだ情勢が不安定な地へ復興の指揮官として選ばれた者たちであり、その作戦の性質上、監察官の中でもオールラウンダーな人選に重点を置かれていた。
例えば水戸信介。
若いがゆえに経験が足りないかと言えば、それは監察官としての話。
つい最近まで探索員としてダンジョン攻略もしていたため、実戦感覚に優れているのが強みである。
川端一真は監察官歴も10年を超える。
水戸とのバランスを考えて、実績を重視された選出である事がうかがい知れた。
また、対人戦にも対応できる柔軟さを持っている。
雨宮順平は説明不要。
世界でも英傑揃いと謳われる日本探索員協会の2人しかいない最高権力者。
性格に難がある以外は文句のつけようのない能力で、何をやらせても出来ない事はないかと思われる。
「雷門さん、雷門さん。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「はい。どうしましたか、雨宮上級監察官」
「聞くところによると、若い女の子が結構いるらしいね! 急襲部隊ってさ! おっぱい大きい子、いる!?」
「緊急事態、なのに! この人、全然ウーッヒヒーン! マジメになってくれへんからぁっハハッフゥーイーッヒ! ナ゛ッ!!」
いい感じに士気も高まって来たところで、あの男がやって来た。
ズンッと音を立てて、地面から生えてくる門。
「これが『
「そうだな。これを使いこなしている者がまだ10代とは。とんでもない話だ」
『
「どうもー! こんにちは! はじめまして、逆神六駆です! お迎えに来ました!!」
「イッグブーン……! ご苦労さま、逆神くん」
雷門監察官、ここぞで自我を取り戻す。
彼も日々成長しているのである。
「やあ。逆神くん。直接会うのは初めてだね。水戸だ」
「どうもどうも! 水戸さん!」
「川端だ。よろしく頼む」
「川端さん! こちらこそよろしくお願いします!!」
「そしてー! どんじりに控えますのはー!! はい、雨宮順平でーす!! あ、今のね、ぺこぱのシュウペイでーすのモノマネなんだけど分かるー?」
「うわぁ! 似てるー! もう一回やってもらえますか!?」
「シュウペイでーす!! あ、違った! 私は順平だった!! シュウペイでーす!!」
「結局シュウペイなんじゃないですかー! ところで聞いてもらえます? シリアスな戦闘の最中にですね、おならしたくなったらどうしようか悩んでで!」
「あー! 分かる、分かるー! あと、お腹鳴りそうになったりすると焦るよねー! なに、逆神くんもしかしてお芋食べたの?」
「そうなんですよー! あまりにも美味しくて! 焼き芋なんですけどね! だから、今の一番の心配は僕の腸内環境なんですよー!!」
おっさんとおっさんが出会うと、収拾がつかなくなる。
逆神六駆のおっさんはお金に執着するタイプ。
雨宮順平のおっさんはエロスにご執心なタイプ。
そこが決定的に違うものの、おっさんとしての性質はかなり似通っていた。
ご存じだろうか。
おっさんは波長が合うおっさんと遭遇すると、2分で知人になり5分で友人になり、8分もすれば親友になるのだ。
これは、おっさんの持つ108ある必殺技の1つである。
「逆神くん? 逆神くん! 早く戦場に向かわないと! もう戦端は開かれたと聞いているけど!?」
「ああ、そうでした! じゃあ雨宮さん! さっきのもう一回やってくださいよ!!」
「オッケー! シュウペイでーす! あ、違った、順平だ!!」
「似てるー!! やっぱり上級監察官になると違いますねー!!」
結局、六駆が出した門をくぐって彼らが転移したのは、さらに5分が経過してからだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
デスターでは6番による指揮の元、迎撃態勢が整いつつあった。
「よし、20番台部隊は全て揃ったな。それでは番号の若い方から配置につけ。指示は通信機で行う。傍受については気にする必要はない。察知されるよりも早くお前たちが仕事をこなせばいいだけだ。そうだな?」
「「「はっ! 了解しました!!」」」
その様子を見ていた4番は満足そうに目を細める。
「これなら、ある程度は時間が稼げそうだな。ヒャルッツよぉ」
「ああ。本土決戦を最初から想定しているため、残すべき人員の整理に時間がかからずに済む」
「日頃からお前が細かく情報を纏めていてくれたおかげだな。礼を言うぜ」
「礼ならば戦いの終わったあとに形で頼む。私は90年代の白ワインを所望する」
4番は「はっ! 大きく出たな!」と応じて、出撃する構成員たちに檄を飛ばす。
「お前らは言わば捨て石だ。だが、捨て石から這い上がって見せろ! オレも最初の戦場は撤退戦の
「了解いたしました!」
「4番様のご期待に応えて見せます!!」
20番台は最も出世欲の高まるナンバーであると、グレオ・エロニエルは語る。
10番台になって上がりを決め込み保身に走る連中よりも使える者が多いとは、同じく彼の弁。
出撃して行った彼らを見送った4番は、先ほどから怪しい動きを見せている男に声をかけた。
「おい。3番さんよぉ? そいつぁ、アレじゃねぇのか? 生体兵器だろ。あんたが作った。
「おやおや。4番くんは意外と紳士のような事を言う。まあ、ここの総司令官は君ですから。私も指示には従いましょう。要は、君の部下以外だったらいいんですよね?」
「ちっ。相変わらず、悪趣味な事で。敵さんなら好きにしてくれ。オレぁそんなやり方は嫌いだけどな」
「結構。777番くん。『
777番は「かしこまりました」と言って、壁の外側へと向かって行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
中継地点アタック・オン・リコの横に設置した『
ついに巨大な戦力が急襲部隊に加わるのだ。
「南雲さん! お連れしました!!」
「ああ、そうか! 雷門さん! ご苦労でした! 雨宮上級監察官! お久しぶりです!!」
「南雲さーん! なんか出世したんだってー? 今度お祝いしなくっちゃね! いいおっぱいのある店知ってるんだよ、私!」
「それは後日のことにしましょう! 現在、チーム莉子と潜伏機動部隊の2人、そして加賀美政宗Sランク探索員が前線で突出して来た構成員と戦っています。早速で申し訳ないのですが、そこに加わって頂けるでしょうか?」
「はいはい、かしこまりー! 水戸くん! 川端さん! 手柄をゲットするチャンスだよー!! ゴーゴー!!」
「また、あなたは……。雨宮さんも行くんですよ!」
「えー。分かったよ、面倒だねぇー」と引きずられて行く雨宮。
突然だが、戦場において最も危険な場面は戦力補充の時、と言う説がある。
詳しい説明は省かざるを得なくなった。
777番の放った凶弾が、水戸を襲ったのだ。
咄嗟にそれを庇う川端。
「うぐぅっ!!」
「か、川端さん!? すみません、自分のために!!」
それだけでは終わらない。
777番は槍を操る塚地小鳩にも目を付けた。
「こりゃ大変だ! そこの可愛いお姉さん! あぶなぁい!!」
「な、なんですの!?」
投入されたばかりの戦力が2人も倒れる異常事態。
だが、本当の異常事態はここからである。
「水戸くん」
「は、はい! 川端さん!? 傷が痛みますか!?」
「死んでくれ」
「うわっ!? えっ、このパターンは!?」
慌てて雨宮順平を見る水戸信介。
そこには。
「見てこれ! すっごい勢いで身体が侵食されていってるぅー!! うわぁー! 水戸くぅーん!!」
777番の撃った玉は『
オマケに、3番の改良済みである。
戦力投入が一転、とんでもない敵兵力となって急襲部隊に襲い掛かる。
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