第328話 竜人トリオと虚弱体質の聖人、空を駆ける

「了解しました。ごふっ」


 こちらはキュロドスの中央部にまたがる、アトミルカの駐屯基地の1つ。

 そこにいるのは、和泉正春Sランク探索員。

 たった今、南雲修一から「作戦決行」の指示を受けたところである。


 そして——。


「和泉よ。卿の体調が余は心配でならぬ。ここで横になった方が良いのではないか?」

「バルナルド様の言う通りである。空襲は我らに任されよ」

「貴公は戦いに向いておらぬと聞いておる。我らに任せておけば良い」


 竜人トリオ。

 バルナルド。ナポルジュロ。ジェロード。

 高火力でイカしたメンバーが、陽動部隊を引き受けていた。


 それにはもちろん理由がある。


 「異世界の民に現世の面倒を引き受けさせるのはいかがなものか」と、協会本部のご意見番・久坂剣友と総大将・五楼京華が物申したのである。

 それに関しては南雲修一も同意見であり、「窮地を一度救って頂いただけでも我々はお礼のしようがありません」と、竜人たちに頭を下げた。


 さらに「この期に及んでの援護は過分も過分なので、お三方にはお引き取りを」と続けた南雲だったが、そこは竜人たちにも筋がある。


 「我ら、既に卿らの手によって一度救われた身。であれば、一度の恩は一度の義によって返礼すべきではないか」とバルナルドは言った。

 既にその一度を「3番との交戦」によって果たしてもらっていると言うのは南雲の言い分であったが、「あの程度を1と数えるようでは竜人の名折れ」と今度は3人揃って首を横に振った。


 結果、六駆が発案した通りの陽動作戦が決行されることとなり、3人の竜人はそれに従う事で話が付いた経緯がある。


「ごふっ。小生、こう見えましても日本探索員協会・Sランク探索員の看板を背負っております。なれば、責任者としての任を果たさねばなりません。げふっ」

「ほう。見上げた忠心であるな。良かろう! 卿がそこまで申すならば、余が止めるのも義が通らぬ! さあ、余の背に乗るが良い!!」


 こうして、陽動部隊の作戦行動が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 東から西へかけて、順に空襲を仕掛けると言う作戦内容である。

 まずは最も東にある、彼らが和泉のステルススキルで潜伏していた基地がスタート地点。


「では、まずは我が参りましょう。弱卒の身である我が先陣を賜る!」

「お願いします。ジェロードさん。ごふっ! 『エクセレンス・ディフェンダー』!!」


 咆哮による攻撃を寸止めして、ジェロードはバルナルドの方を向いた。


「……解せぬ。和泉よ。貴公、なにゆえそのように高度な防御スキルを使う? しかも、使った先は敵陣ではないか」

「それは良いが、ジェロード。卿、いきなりこちらを向くでない。てっきり余にブレス攻撃をするのかと思い、危うく急旋回するところであったわ」


「それは失礼した。だが、このジェロード、不可解な事は正しておかねば気が済まないのだ。和泉よ、教えてはくれぬか?」

「教えてやってくれ、和泉。ジェロードの咆哮は無属性であるゆえ、余にも効果は抜群である。それがもう、ちょっと先っぽが口から見えておるのだ。怖いではないか」


 和泉は「げふっ」と血を吐きながら、竜人の質問に答えた。


「小生は、このように虚弱体質でして。血を吐けば苦しい事を知っています。身を焦がされれば辛い事も容易に想像ができます。ならば、相手が敵であっても苦しい思いをして欲しくない。つまり、小生のエゴでございます。ふふ。げふっ」


「……やはり解せぬ。そのためならば、貴公が血を吐くのも厭わぬと?」

「ええ。それがエゴと言うものでございます」


 ジェロードは少しばかり目を閉じた後に「ぐーっはは!」と笑った。

 続けて、もう一度、今度は目を見開いて和泉正春を大きな瞳に捉える。


「和泉よ。貴公、体は弱くとも心は実に強者の趣ではないか! 他者のために血を流すとは、傾きよるわ! その温くも尊い思い! 我らも従おう!! よろしいか、ナポルジュロ殿!!」

「ふっ。ジェロードが惚れこむとは珍しい。逆神六駆以来ではないか。貴公の意を尊重しようぞ! よろしいですな、バルナルド様!!」



「卿らの考え、よく分かった! ゆえにジェロード! いい加減に標的の方を向け! 卿のブレスがちょっとずつ出て来るのを見ておると、良い話も耳に入らぬ!!」

「これは重ねて失礼を。では、和泉! 準備は良いな? 我がブレス、貴公の防御スキルで防いで見せよ!! グワァアァァァァァ!!!」



 結果として、和泉は3つある駐屯基地の空爆による負傷者を1人として出さなかった。

 ジェロードはもちろん、ナポルジュロも手心は加えていない。


 竜人たちの本気のブレスは基地を崩壊させ、黒煙が上がる。

 だが、アトミルカの構成員たちはその身に纏わりつく温かい防御膜によって、火傷の1つもせずに避難を完了させる。


 上空を舞う竜人たちに恐怖し、無条件で降伏するアトミルカ構成員たち。

 2桁ナンバーの後半であれば、部下の命を守る判断を下すのが正しい。


 その降伏を受け入れる度に、和泉は嬉しそうに血を吐いた。


「ぐーっはは! よもや、我らの攻撃で怪我人すら出さぬとはな! 和泉正春! 貴公は紛れもなく異界の猛者よ! このジェロードの記憶にしかと貴公の名を刻み込もう!!」

「げふっ。これはなんとも……。この身に余る光栄です。ごふっ」



「ナポルジュロ? このような空気で実に言い出しづらいのだが。なにゆえジェロードは2回攻撃したのだ? おかげで、余の攻撃する基地が残っておらぬのだが?」

「バルナルド様。ここは我の顔に免じて、どうかご容赦を。これ以上の無粋な発言は、あなた様の人気をさらに下げる事になりかねませぬ」



 バルナルドは「左様か」と頷いた。

 そのあとで、一応聞き返した。


 「、とは? 余の人気が、下がるとは?」と。


 ナポルジュロは「ふっふっふ」と笑ってごまかした。

 こうして、陽動部隊の任務は完了。


 優しい空襲により、駐屯基地は焼け野原に。

 怪我人は0と言う、アンタッチャブルレコードを記録したのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 同時刻。

 軍事拠点・デスターでは。


「6番様!! 駐屯基地が何者かによって襲撃を受けております!! 被害は……!! なっ!?」


 キュロドスの治安維持、その全権を委任されている6番。

 ヒャルッツ・ハーラントはハッキリとしない部下を叱咤する。


「報告は端的に述べろ。被害は?」

「す、全ての基地が! 壊滅しております!! これは、相当な数の軍が一斉に攻撃したとしか思えません!!」


 ヒャルッツは「ううむ」と考える。

 駐屯基地と言えば、数時間前に3番が「面白い生き物たち」と一戦交えた場所である。


 そこから横に伸びる基地の並びを、順序良く空爆された事が6番には引っ掛かる。


 だが、事は甚大。

 単独で判断するには余ると考えた彼は、4番を呼び出すように部下へ指示した。


 その瞬間であった。

 軍事拠点・デスターが、かつて経験した事のない激震に見舞われた。


「ぐおっ!? な、何事だ!? 地震か!?」


 6番が天災と思ったのも無理からぬこと。

 莉子の放った『苺光閃いちごこうせん』がデスターの外壁に着弾し、その4割を消失させた衝撃は、災害でなければ説明がつかない。


「ろ、6番様ぁ!!」

「今度はどうした!? 今の地震で被害が出たか?」


「で、ででで、デスターの外壁が! 爆発したのち、溶け落ちました!! その規模……その規模! 計測不能!! 緊急事態です!!」


 この報告を聞いて、6番は得心がいった。

 「これは災害ではない。災害規模の敵襲である」と。


 彼はデスターに緊急警報を発令した。


『敵襲だ。総員、最大級の迎撃態勢で身構えよ』


 その判断は、正しく素早かった。

 探索員協会急襲部隊の侵入を許す前に一応の迎撃態勢を整えたのだから、これは称賛に値するだろう。




◆◇◆◇◆◇◆◇



 年の瀬まで拙作にお付き合いくださり、ありがとうございます。

 まさか年を越してまで連載が続くとは思ってもおりませんでしたが、それだけ読者様に愛して頂けたことを思うと誇らしくもあります。


 現在拙作はカクヨムコンに参加しておりますが、正直情勢はパッとしません笑

 長期連載作ですので、やはり新規の作品には勢いで負けてしまいます。

 とは言え、物語はきっちりと完結まで書き切る予定ですので、ご安心を。


 なお、お年玉に作品のフォロー、☆による応援などをして頂けると作者がモチベーションを回復させますので、ご一考ください!


 それでは皆様、良いお年を。

 来年も拙作にお付き合い頂ければ幸いです!!

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