第319話 アトミルカ3番クリムト・ウェルスラー、キュロドスに到着する

 逆神六駆は戦いに関して余念のない男。

 そこにお金が加わると、完全無欠と表現しても過言ではない。


 彼は現在、破壊した駐屯基地を修復作業中である。


 「もうバレてるかもしれないですけど、一応基地の形を元に戻しとけば、ほら! 敵さんも勘違いするかもですし!!」と笑顔で『大工仕事カーペンタブル』を発現中。

 残ったメンバーは、和泉の治癒スキルの有効領域内に怪我人を運んでいた。


 アトミルカの構成員たちは、紳士的であり敵にも手を差し伸べ献身的でもある南雲修一とその仲間たちを見て、心が洗われる思いだったと言う。


 いきなり現れて基地をぶっ壊したのも彼らなのだが、言わぬが花である。


 そんな中、3メートル以上の巨体を小さく丸めている竜人がいた。

 名前はバルナルド。

 かつてはスカレグラーナの地を人が生まれる前から支配していた、帝竜であった。


「ナグモ。余は具体的に何をすれば良いのだ? ぶっちゃけ、逆神六駆よりも卿に指示を出された方が精神的安全マージンの振れ幅が全然違うのである」

「いや、もう、本当に。バルナルド様が手伝ってくださるなんて、百人力、いや千人力ですよ!!」



「ナグモ? 余は自発的にここに来たわけではないのだが?」

「あ、すみませんでした。なんか、流れでイケるかなって少し思ってしまいまして」



 南雲は改めてバルナルドに部下の非礼を詫びた。

 「勝手に異世界から異世界に連れ出してごめんなさい」と。


 南雲はそんな謝罪をするのが初めてだったのでそれが正解か分からなかったが、バルナルドにも合否判定の基準が見えなかったため、「う、うむ」と謎の納得が両者の間で成された。


「先ほど軽くお話したようにですね。我々はアトミルカと言う組織と戦っているのです」

「逆神六駆もそのように申しておった。卿が戦うと言うからには、さぞや悪辣な企みを持つ組織なのであろう?」


 竜人・バルナルドの南雲に対する信頼度は既にマックス。

 好意値もカンストしているので、いますぐ告白のアイコンを選んでもハッピーエンドは約束されている。


「少なくとも、我々の世界で彼らは許されない事をしています。スキルを身勝手に使い、異世界を我が物顔で蹂躙する。とても看過できません」

「なるほど。卿の言う事はもっともだ。……だが、良いか? ナグモ」


 南雲は「なんでしょうか?」と返答した。



「卿の言った行動を、逆神の一族は普通にやっておるように思えるのだが? これはアレか? 余の認識がおかしいのであろうか?」

「……すみません。バルナルド様。ご指摘、いちいちごもっとも。ですが、その質問を肯定した瞬間に我々の正義の旗印がなんか薄汚れた感じになります」



 バルナルドは「そうであったか。なんかすまぬ」と謝った。

 それから彼は、この駐屯基地を守護する役目と、緊急時にはその翼で戦場に助っ人として馳せる事をナグモと取り決めた。


 「逆神六駆の説明不足な命令に比べれば、なんと言う心の安定感であろう」とは、かつて帝竜と呼ばれたバルナルドの感想だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 キュロドスの西の端。

 砂漠しかない荒野に男が1人。何もないところから突然現れた。


「ほう。煌気オーラの反応が極めて多いようですね。どうやら、8番と7番の反応が消失した事に加えて考えると、アンノウンがこの地にやって来ているのは間違いないようです」


 彼はアトミルカの3番。

 名前はクリムト・ウェルスラー。


 アトミルカの技術開発局の局長にして、この世界規模暗躍組織のナンバー3である。


「3番様。移動はどのようになされますか? 【稀有転移黒石レアブラックストーン】を使用なされますか?」

「いえいえ。結構ですよ。せっかく久しぶりに来たキュロドスです。ゆるりと参りましょう。777番くん」


 クリムトの側近を務めるのは、777番。

 数字だけだとトリプルフィンガーズのように見えるが、その実力は極めて高い。


 777番と言うのは、クリムトが付けた番号である。

 彼は科学者でありながら、縁起を担ぐことを好む。


 「非科学的な事こそ研究のし甲斐がある」とは、クリムトのモットーでもあった。


「3番様。極めて巨大な煌気オーラ反応がありますが!?」

「4番くんでしょう。彼は血気盛んですからね。勢いに任せてスキルでも放っているのではありませんか?」


「いえ。このような煌気オーラの波形は見た事がございません。人間かどうかも怪しいかと思われます」

「ほほう?」


「も、申し訳ございません! 決して、世迷言を申したつもりは……!!」

「いえいえ。煌気オーラ検知器を見せてごらんなさい。……ほお!! これはなんとも! 素晴らしいじゃありませんか、777番くん!! 本当に見た事のない反応ですよ!!」


 3番と777番が発見した煌気オーラの反応は、言うまでもなく竜人バルナルドのものであった。

 そもそも、スカレグラーナの竜人たちには煌気オーラを隠したり消したりする能力がない。


 学べば簡単に習得する事が出来るものの、学ぶ必要がないからである。

 それが今回は裏目に出ていた。


煌気オーラの質からすると、ドラゴンが最も類似していますが。ふうむ。しっかりと人間と判定が出てしまっていますね。私の検知器が誤作動を起こしましたかね?」

「そ、そのような事はありません! 3番様のお作りになられた機器に、不具合などあるはずが!!」


 クリムトは777番のセリフを手で制した。

 続けて、穏やかな口調で諭すように語る。


「何にも完全と言うものはありません。私は自分の技術者としての腕に自信を持っていますが、世の中の事象と言うものはその予想を軽々超えていく。だから面白い」

「はい! 勉強になります!!」


「それにしても、興味深い。これはデスターへ向かう前に、この煌気オーラの元を確認して行きましょう。視察に寄り道は付き物ですよ」

「では、『圧縮玉クライム』をお使いになられますか?」


「そうですね。せっかくのモルモットに気取られて逃げられてしまっては興ざめ。777番くんの好きなものを選びなさい」

「ははっ! 『泥船クレイヤー』はいかがでしょうか!?」


 3番は「悪くないですね」と答える。


 『圧縮玉クライム』とは、3番が開発しているアトミルカの新兵器。

 イドクロア装備を保管すると同時に、常時その充填を120パーセントで維持すると言う装置である。


 そこから777番が取り出した『泥船クレイヤー』は、地面を高速で走る煌気オーラボート。

 出発の準備は数秒で済んだ。


「参りましょうか。運転は任せましたよ」

「かしこまりました。目標地点まで、5分で到着させます!」


 悪の組織は少しずつ段階をおって、弱い者から登場する。

 そんな理屈はフィクションの中のルールであり、アトミルカには適応されない。


 3番が猛スピードで急襲部隊へと迫っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「むっ! 南雲さん! お金ください!!」

「なに!? どうしたの、いきなり!? きびだんごみたいな感覚で金銭を要求するようになったの!?」


 六駆は煌気オーラ感知が得意ではない。

 だが、これほどの規模になれば嫌でもすぐに察知できる。


「なんか、強い人がこっちに向かってます! 結構ヤバいヤツです!!」

「ええ!? 逆神くんがヤバいとか言うのを聞くと、一気に不安になるんだけど!!」


「ひとまず、アタック・オン・リコを基地から離しましょう! ふぅぅん!! 『外付け蜃気楼オートバニッシュラル』!! クララ先輩! みんなを乗せて10キロくらい走ってください!!」

「あいあいにゃー!! お任せだにゃー!!」


 その場に残ったのは、逆神六駆。

 さらに南雲修一と和泉正春。加えて、竜人・バルナルド。


 いつになく危機感を強める六駆。

 新たな脅威は、もうすぐそこまで迫っていた。

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