第293話 チーム莉子、海外デビューする フォルテミラダンジョン第1層

 フォルテミラダンジョンを攻略する必要がある。

 さらに条件が付く。


 なるべく早く。

 そして、秘密裏に。


 南雲が最初に思い付いた策は、恐らく急襲部隊の面々も頭に浮かんだだろう。

 逆神六駆の単騎特攻作戦である。


 まず、六駆1人でダンジョンに突入させて、一気に最深部まで駆け下りる。

 そののち、異界の門の手前でも、異世界に突入してからでも構わないので、安全を確保できたと彼が判断したら『ゲート』を出す。


 間違いなく、これが最もスマートで無駄がない。


 だが、南雲修一総指揮官は首を横に振る。

 理由はやっぱりすぐに思い浮かんだと言う。



 どうせむちゃくちゃやって、突入前にアトミルカ側が察知するパターンである。



 スピードと確実性は保証される六駆の単騎特攻。

 だが、不測の事態と「あれ? 僕また何かやっちゃいました?」という、見る者をイライラさせる六駆の笑顔も漏れなく付いてくる。


 これでは本末転倒も甚だしい。

 よって、第2案を考える必要が出て来る。


 南雲は考えた。

 チーム莉子の誰かを随行者として選び、六駆とコンビで攻略させる方法はどうか。


 しかし、これも南雲のセルフ却下が発動。


 莉子と組ませると、普段は理性的な莉子から理性が消えて恋愛脳が働き始め、最悪の場合一緒になって大暴れする。


 クララと組ませると、普通に手を抜いて進行速度に不安が残る。

 芽衣と組ませると女子中学生には荷が重すぎる。可哀想。

 小鳩と組ませるとお排泄物アレルギーが出る。可哀想。



 結局、どの組み合わせもダメである。



 まるで狼と山羊とキャベツを無事に対岸に渡すにはどうしたら良いかを問う、川渡問題のようだった。

 なお、六駆攻略問題には正解がない。


 ハメ技である。


 南雲は代案を探した。

 だが、見つかるものはどれもパッとしない。


 結局5分ほど悩んだ彼は決断を下す。


「じゃあ、チーム莉子がダンジョン攻略を担当してくれる? 道中で何かあれば『ゲート』で人員交代を。ただし、出来る限りその機会は少なくしたい。万が一にも煌気オーラを感知されると急襲の利点がなくなってしまうから」


 要するに、いつものダンジョン攻略が行われるのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「南雲さん! タイムアタックは何分でクリアしたら5万円もらえるんですか!?」

「タイムアタックって言うなよ、逆神くん。君からは緊張感がまったく見えないな」


 莉子とクララ。

 六駆との付き合いが最も長い2人が南雲に苦言を呈した。



「もぉぉ、南雲さん! 六駆くんに緊張感を求めるなんてひどいですよぉ!」

「100万円くらいご褒美出したら多分、ガチの緊張感が生まれますにゃー」

「うん。ごめんね。私が間違ってた。おかしいな。何言ってるんだろうね、私」



 攻略準備に取り掛かるチーム莉子。

 そんな彼らを部隊の仲間たちが後押しする。


「逆神くん! 自分はいつでも交代できるから、気軽に声をかけてくれ!!」

「ありがとうございます、加賀美さん! 飽きたらすぐにお願いしますね!!」


「いや、ダメだよ逆神くん。君が引っ込んだら『ゲート』出せないじゃないか」

「えっ!? 僕、ずっと強制的にスタメンなんですか!?」



 六駆おじさんは作戦概要を理解しているが、理解した事をすぐに忘れるのであまり意味がない。



「小鳩さん。これ持っておきなさい。潜伏機動部隊の装備。棒手裏剣は煌気オーラで遠隔操作できるから。あなたの『銀華ぎんか』と同じ要領よ」

「まあ! 感謝いたしますわ、青山さん! きっと役に立ててご覧に入れますので、見ていてくださいまし!!」


 すっかり仲良しの青山と小鳩。

 愛用の武器を手渡すと言う、ピンチになったら発揮されるパターンの礎が構築される。


「ふ、ふふっ、椎名さん。俺たちスナイパーはダンジョンではぷっ、くくっ、あまり役に立てないからね! これ貸してあげるよ。出刃包丁! ふふふっ」

「お気持ちだけで充分ですにゃー。出刃包丁片手にダンジョン攻略はあたし、ちょっとまだ早いと思うのですにゃー」


 雲谷は「はははっ。それなー」と笑って、出刃包丁を消した。

 それは具現化装備だったのか。


 芽衣のところへはサーベイランスが1基飛んでくる。

 モニターに映るのは協会本部残留組の福田弘道。


『木原さん。伯父の木原監察官がお守りを渡せと言っておりますが。これは、こちらで処分してもよろしいですか?』

「みみっ。そこに海があるので、粒子レベルに粉々にしたあとで捨てておいて欲しいです。みみっ」


 特に得るものはないが、むしろ失う事で身軽になる芽衣。

 莉子のところには六駆が寄り添っている。


 多分、どうでもいい話をしているのだろう。


「莉子! 見て、マントの文字!! ピンクのラメにしてもらったんだ! 作戦に間に合って良かったよ!!」

「もぉぉ! 恥ずかしいでしょー! アトミルカさんに失礼だよぉ!」



 本当にどうでもいい話だった。



 こうして突入準備が整った。

 急襲部隊は和泉の暗幕スキルをと、屋払、青山の両潜伏機動部隊隊員による隠密スキルを使用して姿と煌気オーラを隠し、地上で待機する。


 チーム莉子、海外デビューの時が来る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「みんな、とりあえず壁に名前書く!? ほら、多分日本から来たのって僕たちが初めてだろうからさ!!」


 六駆おじさん、ダンジョンに入って最初にする事が迷惑な観光客のそれだった。


「何をおっしゃっているの、逆神さん! わたくしたちは協会本部の意思を背負っているのですわよ! そのように浮ついた姿勢でどうなさいますの!?」


 小鳩怒られて、素直に謝る。



「すみませんだにゃー。記念って聞くと、みんなとの共通の思い出みたいでステキだと思っちゃいましたにゃー」

「……もう書いてしまわれたのですわね。……ああ、もう! そんな顔をしないでくださいまし!! 分かりましたわ、皆さん、名前を書きましょう!!」



 塚地小鳩もすっかりチーム莉子の色に染まったものである。

 全員で仲良くフォルテミラダンジョン第1層に名前を彫った。


「莉子さんや。このキラキラしてる石って何だろう?」

「んーとね、これはラキシンシって言う鉱石だよ! 日本のダンジョンでは滅多に採れないの! こんなにたくさんあるのは図鑑でも見た事ないかもだよぉー」


「ふぅぅぅぅんっ! 『螺旋手刀ドリドリル二重ダブル』!!」

「にゃははー。まったく迷いがないにゃー」


 逆神六駆、ラキシンシを2キロほどゲット。

 そろそろ先に進んでくれないか。


「それじゃあ、『観察眼ダイアグノウス』で敵さんがいないか見てみるよ。まあ、たいしてあてにはならないけど。南雲さん! サーベイランスの煌気オーラ検知はダメなんですよねー?」


 サーベイランスは同行しているが、六駆の言うように煌気オーラ検知をするとアトミルカ側に気取られる可能性があるため、緊急時以外は通信のみにする旨が伝えられている。


『すまないが、ここは逆神くんを頼らせてもらうしかない』

「了解です! これ、査定に入りますよね!?」


『入るよ! 入る!! もう、君のファインプレーは全部査定の中に入るから!!』

「ふぅぅぅぅぅんっ!! 『極大テラ観察眼ダイアグノウス』!!」


 おいおい六駆のスキルは問題ないのかと思われた諸君は勤勉で真面目で才能もある。

 ここで脚光を浴びるのが逆神流。


 逆神流は完全な我流スキルを独自進化させてきた流派なので、通常のスキル煌気オーラ感知システムの警戒レベルではまず見つからないだろうと言うのは、本部残留組のオペレーターコンビ、山根と福田のお墨付きである。


「よし! 第4層までに人間の煌気オーラは感じられないよ! 早いところ進もう! そして、ボーナスをもらおう!!」

「うんっ! みんな、がんばろー!! おー!!」


 歴代最強の逆神流使いと、その最強の男に鍛えられた逆神流使い。

 彼らを止める者は現れるのか。

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