第287話 連携に問題アリ! 混戦模様のAチーム
戦闘開始の合図とともに、急襲部隊Aは作戦通りの配置につく。
まず、前衛を務める屋払が敵陣めがけて走り出した。
彼は陽動の役割も兼ねているため、できるだけ派手に動いて良い。
実に適役である。
雲谷とクララは逆に自陣の最後尾まで下がる。
遠距離射撃がメインの2人だが、今回は同じ位置に並べる。
別々の場所に配置して砲台を2つ作るのも手ではあるが、そうなるとクララが単独で襲われた時に対応が後手に回る。
後手に回っているうちにクララがやられる。
やられる描写を省かれて、多分知らないうちに戦闘不能になる。
そのための雲谷陽介。
彼は近距離戦闘を得意としていた元アタッカー。
上官の雨宮に「なんかさー。遠距離攻撃できる子が獲れないから、雲谷くんやってくれる?」と言われて「ははっ、いいですよ」と引き受けたのである。
緊張感はまるでないが、雲谷の実力は何をさせても万事そつなくこなせる器用さと応用性が主体であり、気付けば協会屈指のスナイパーになっていた。
最後に莉子と芽衣。
芽衣はやや前衛寄りに、莉子はやや後衛寄りに構えて、周囲の遮蔽物に身を隠した。
彼女たちは戦局が動き始めてからの遊撃隊である。
「おっしゃあ! 胸貸してもらいます! 雷門監察官! よろしくぅ!!」
「いきなり俺のところに来るか! いいだろう! 『
雷門の構築スキルは一級品。
瞬時に付近の岩を右手に吸い寄せると、巨大な腕を創り出してそれを振り回した。
「『ソニックダンス』! うっはー! ヤベー! 喰らってたら死んでるぜ! よろしくぅ!!」
それを紙一重で躱して見せる屋払。
会場は開始直後の大立ち回りに沸き上がる。
『屋払Aランク探索員! 電光石火の早業で雷門監察官を狙うー! だが、雷門監察官はそれを難なく振り払ったぁー!! 防御のついでに攻撃までこなす、コスパ最強の監察官ー!!』
そんな雷門に久坂が声をかけた。
「雷門の」
「久坂さん! 前衛に出られるのですか!?」
「いんや。違うんじゃ」と前置きした久坂は言う。
「あののぉ。テンションで自称まで変えられたらのぉ。もう、お主誰か全然分からんけぇ。そろそろ一発号泣しちょかんか?」
「あんまりなお言葉です……。どう対応したら良いんですか!?」
辛辣なツッコミで味方のハートを抉っていく久坂。
だが、彼が出て来たのはそのためだけではない。
「よーし。この辺でええじゃろ。おい、55の。見せちゃれ!!」
「了解した! 久坂剣友!! うぉぉぉ! 『ローゼンクロイツ』!!」
55番が放ったバラの花束を十字架に模したスキルを見て、Aチームが一瞬戸惑う。
彼らは55番のスキルを知らない。
知らないからこそ動きを阻害する。
「一体バラの花束にどんな意味が!?」と考えてしまう。
まったく意味がないにも関わらず。
「よっしゃ、ええぞ! 55の! もっとやっちゃれぇ!! 今が好機じゃけぇ!」
「確かにそうかもしれん!! 『ローゼンクロイツ』! 『ローゼンクロイツ』!! 『ローゼンランツェ』!!」
久坂の指示は老獪だった。
意味不明なスキルの連打ほど初見で恐ろしい攻撃はない。
ついでにちゃんとした攻撃スキルの『ローゼンランツェ』も交える事で、Aチームの思考はさらに鈍る。
「屋払さん、下がってください! クララ先輩! 雲谷さん! お願いします!!」
「了! 小坂リーダーの位置まで撤退よろしくぅ!!」
「ははっ、バラの花束撃つんだってさ。どこが急所なのかね? はははっ」
「ここは莉子ちゃんを信じるにゃー」
遠距離コンビがバラの花束を狙撃する。
「さあ、やろうか椎名さん。『サイクロンショット』! あはは」
「うにゃー! 『グラビティアロー』!!」
狙撃を受けて花吹雪のように舞い散る『ローゼンクロイツ』。
当然である。
ただの具現化したバラの花束を攻撃したら、花は散るだけ。
視界が悪くなったところで、盤上における最強の駒が進撃する。
「
チェスのクイーンは盤上を縦横無尽に駆け回る。
探索員協会を統べる女王もまた、機動力を備えた最強の矛。
「危ない、屋払さん! わたしが! 『
「ほう! これを受けるか! 小坂!!」
激しい応酬が繰り広げられていくが、少しずつ押され始めるのはAチーム。
いくら合同訓練を繰り返して来たとは言え、実戦になると勝手が違う。
普段は隊長である屋払と雲谷が指示を受け慣れていない点もまずかった。
莉子は五楼と剣を交えながら、反撃の一手を考える。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『さあ! とんでもない事になって参りました! 五楼上級監察官とまともに斬り合いとなれば、小坂Aランク探索員が厳しいかぁー!!』
『そうですねー。莉子も腕は良いんですが。相手が五楼さんだと、近距離で戦うのは得策とは言えないですね』
六駆はそう言いながら、「まあ、莉子が近距離で五楼さんを受け持ってなければ既に屋払さんは落ちてたんだよね」と愛弟子の活躍に頷く。
『この一連の攻防でAチームはかなり後方まで攻め込まれています! そうなりますと、次の展開はどうなるでしょうか!? 何故か兵法に詳しい逆神Dランク探索員!!』
『まず何が嫌だって、久坂さんですよ。あのおじいちゃん、完全に嫌がらせを目的に攻撃してますからね。戦場であんな意味不明な動きをされたら、並みの戦士はパニックになります。よく持ちこたえたと思いますよ』
『上から目線の解説が炸裂ぅー!! 17歳とは思えません! では、この次に監察官選抜はどうするとお考えでしょうか!?』
『僕だったら、戦線を押し上げる事に成功しているので物量作戦に出ますかねー。ほら、土属性の人たちが2人もいますから。砲撃の材料ならステージに捨てるほどありますし。Aチームを的にした射撃大会が始まるんじゃないですか?』
六駆の予想通りであった。
五楼が猛威を振るう中、久坂と55番は未だに薔薇の花びら作戦を続行。
その後ろでは、山嵐がせっせと『ガイアスコルピウス』を建造している。
射手は土属性のスペシャリスト、雷門善吉。
「よし、いいぞ山嵐くん! いい仕事をしたなぁ!!」
「俺がこの戦いに交ざるのは絶対に無理なんで、せめて後方支援のお役に立てれば!!」
「さあ、急襲部隊の諸君。俺たちの合作スキルをどう防ぐ!?」
「雷門さん。俺と自称が丸被りなんです。誰が何言ってるのか分かりませんよ」
「せやかてぇ! イッグフゥゥゥー! もう俺だってネェ、どうやったらキャラが立つかアッハァーエエーン! 分からへんのやってヒャウホォォオー!!」
「あっ。今は確実にキャラ立ってます! 頑張ってください、雷門さん!!」
山嵐のエールを背に、号泣監察官が火を噴く時が来た。
「アハァァァーッ!! 『
雷門の放つ巨石の砲弾。
同じ遠距離攻撃でも、雲谷とクララは狙撃がメイン。
このように膨大な
だが、ここまでずっと潜んでいた彼女が、Aチーム反撃の狼煙をあげる。
「みみみっ。『
芽衣が20人に増えた。
その全てが実体を持つドッペルゲンガー。
芽衣はこの一撃に全ての煌気を注ぎ込んでいた。
「自分の役割」を最も理解しているのは、最年少の探索員。
「みみみみっ! 『
雷門の放った巨石の砲弾を全て打ち砕いた芽衣。
その思い切りの良さには五楼も思わず「ほう」とため息を漏らす。
「ありがとー! 芽衣ちゃん! 皆さん、反撃ですよ! わたしに続いて下さい!!」
小坂莉子、動きます。
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