第284話 ハッキリさせよう 誰が1番強いのか

「喰らえっ、逆神!! 『ソニックウェイブ・ハリケーン』!!」

「うわぁ! すごい! 空気を振動させてるんですか!? しかも攻撃範囲が広い!! 僕の周りにも煌気オーラの込められた震動波が!!」


 屋払文哉と逆神六駆が勝手にはっちゃけ始めて15分。

 既に第3訓練室の外壁が崩れ落ちようとしていた。


「にゃははー。六駆くんもこうして見ると、年頃の少年だにゃー」

「私にできるのはもう、小坂くんにラインする事くらいだよ。とりあえず、この前君たちが可愛いって言ってた、しろまるのスタンプ連打しとこう」


「おー! 南雲さんのハートがちょっと若返ってるにゃー? さては、いい出会いでもありましたかにゃー?」

「最近ね、私用でラインする人がいるんだけど、その人基本的にさ、分かった。しか返事くれないの。だったら私がスタンプでも貼り付けないといけない義務感を覚えるじゃない?」



「普段ラインなんてチーム莉子内でしか使わないから分かんないですにゃー!」

「なんかごめんね!? お詫びにしろまるのスタンプ、プレゼントしとくから!!」



 南雲修一は空中に作った震動の足場を使って自在に飛び回る屋払と、それに応じて笑顔で飛び回る六駆を見ながら薄々感じていた予感を吐露する。


「これ、アレだなぁ。私の手に負える部隊じゃないなぁ……」


 哀しき上官の嘆きに反応するのは、急襲部隊の大人たち。


「なにを仰るんですか! 逆神くんやチーム莉子という協会屈指の個性を纏め上げておられる南雲さんらしくない! 自信を持ってください!!」

「ああ、ありがとう、加賀美くん。なんか号泣する雷門さんの気持ちが分かる……」


「小生も力のげふっ……限り……ごふっ! この身のあるがはっ……うがっ」

「和泉くんはゆっくり横になってて。気持ちだけですごく嬉しい」


 分別のある大人たちに心を癒されるのも束の間。

 大人だからと言って分別があるとは限らない事を南雲は知る。


「あはは、これは良い訓練になるぞー。よく動く的だなー。あははは」

「……雲谷くんはさ。なんでニヤニヤしながらライフル出して、屋払くんと逆神くんを狙ってるのかな?」



「ふ、ふふっ! いや、なんか撃っても良い空気かなって、思いまして、あはは!」

「君からはそこはかとなく逆神くんと同じ匂いがする!! ダメだよ! 撃たないで!!」



 雲谷陽介は二十歳の時にAランクに昇進して以来、何年も昇進査定を受けていない。

 彼の実力は既に計測不能であるが、その人間性も計り知れないものがあった。


 彼は自分のパーティーメンバーからも「サイコパス」呼ばわりされている。

 それが正しいのだから、南雲は目頭を押さえた。


「南雲指揮官! 意見具申よろしいでしょうか!!」

「ああ、青山くん。そんなにかしこまらないでいいよ。どうしたの?」


「私の計算では、このままですとあと12分ほどで天井が崩落します!!」

「……聞きたくなかったなぁ。ああ、もうめちゃくちゃだよ」


 今回の過失責任は屋払が7割、六駆が3割と言ったところだろうか。


 先に攻撃を仕掛けた屋払。

 17歳とガチンコでバトルをするアラサーの屋払。

 震動スキルと言う、屋内で使うと何かが壊れる攻撃をしているのも屋払。


 その震動スキルを消滅させればいいのに、わざわざ上へ受け流す六駆。

 天井にダメージが蓄積されているのも知っている六駆。


 「あとで直せばいいか!」と「でぇじょうぶだ、ドラゴンボールで生き返れる」的な思考で自己完結しているのも六駆。



 混ぜるな危険を混ぜた時点で、こうなる事は決まっていた。

 むしろ、「この時点で混ぜといて良かった」と南雲は思っていた。



 そこに、救いの女神が降臨する。

 制服姿の彼女は右手に煌気オーラを込めて、「やぁぁぁぁぁっ!」と気合を入れた。


「もぉぉぉ! 六駆くん! 南雲さん困らせちゃダメだよぉ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!」


 苺色の悪夢が第3訓練室を包み込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「南雲さんからラインが来たんだよ? 六駆くん、大人なんだから迷惑かけちゃダメっ! もぉぉ。わたしが間に合ったから良かったけどぉ!」


 正座させられた逆神六駆。

 莉子のお仕置き『ピンポイント苺光閃いちごこうせん』の直撃を喰らって、さらにお説教まで喰らっている。


「屋払さん。見えますか? 逆神くんの姿が。一歩間違えばあなた、死んでましたよ? 仮にもうちの部隊の隊長なんですから、色々と弁えて下さい」

「反省してるんで、よろしくぅ……。対抗戦の記憶が蘇ったんでよろしくぅ……。久しぶりにブルっちまったんで、よろしくぅ……」


 こちらは青山仁香に怒られる屋払文哉。

 急襲部隊は女子が強いと言うパワーバランスが生まれた瞬間である。


「すみません、うちの六駆くんがご迷惑をおかけして!」

「あ、いえいえ。いいのよ。うちの屋払隊長が先に仕掛けたんだから!」


 犬の散歩で飼い犬同士がケンカした後の飼い主の会話にしか聞こえない。


「あははは。あの正確な射撃能力と俺の何十倍もある威力。こりゃあ勝てないなぁ。あはははは。すごいなぁ、小坂さん」


 サイコパススナイパーは勝手にセルフ反省会を開いている。

 彼はクララと一緒に後衛を務める予定だが、2人は上手くやっていけるのだろうか。


「雲谷さん、そのライフルって具現化武器ですかにゃー? それとも南雲製にゃー?」

「あはは、椎名さん。これは俺が自分で作った具現化武器だよ。撃つまで3秒かからないところが売りなんだー。あははは」


「おおー。すごいですにゃー! 笑顔の死神の異名は伊達じゃないですぞなー」

「椎名さんも多彩な遠距離スキルを持ってるじゃないか。作戦本番の時は、どっちがたくさんアトミルカの頭撃ち抜けるか競争だね。ぷっ、ふふふ」


 意外と打ち解けている2人。

 ぼっちとサイコパスの相性は◎だと判明した。


「じゃあ、六駆くん! 壊れたところを修理して!」

「ええ……。今じゃないとダメ?」


「ダメだよぉ! そう言って、宿題だって結局次の日までやらないんだから! 遊んだ後はお片付け! うちで晩ごはん食べさせてあげないよ?」

「ふぅぅぅぅぅぅんっ!! 『極大テラ大工仕事カーペンタブル』!!!」


 その場にいた全員が思った。


 逆神六駆のスキル、聞いてる以上にヤベー。

 その逆神六駆を普通にコントロールできる、小坂莉子はもっとヤベー。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「まあ、ね。色々あったけど、顔合わせは済んだことだし。これからみんなで連携の練度を高めていこう! それでね、部隊のリーダーなんだけどね。小坂くんにしてもらおうと思うの、私。異論がある人っている?」


「ふぇぇっ!? や、嫌ですよ、わたし! 皆さんの方が年齢もキャリアも上なのにぃ!!」


 反対したのは莉子だけだった。


「小坂さんなら適役だと自分は思います!」

「小生も……ぐふっ、同感です」


「私たちからは何の文句もないです。ね、屋払さん?」

「うっす。オレ、不運ハードラックダンスっちまって事故るのはごめんなんで。よろしくぅ」


「あははは! 楽しそうでいいですねぇ!」

「雲谷さん、多分何も考えてないですにゃー?」


 南雲が総括する。


「どうだろう、小坂くん。やってみてはくれないか? もちろん、無理だと私が判断すればすぐに代役を立てるから!」


 悩める乙女の肩をそっと抱き寄せて、六駆は言った。



「莉子。大丈夫。莉子ならできるよ。僕が保証する」

「もぉぉ……。六駆くんが言うなら断れないよぉ!」



 こうして急襲部隊のリーダーが決定した。

 後でこの時の話を伝え聞いた芽衣と小鳩は「チーム莉子あるある」として、終始笑顔だったと言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る