第283話 一騎当千の猛者たち、集まる

 今日はこれから、対アトミルカ急襲作戦実働部隊、略して急襲部隊の顔合わせを控えている。

 南雲監察官室には六駆とクララが待機していた。


「平日にしたのがまずかったなぁ……。小坂くんがいないのは痛いなぁ……」


「まあまあ! 南雲さん! 莉子の分まで僕が頑張りますから!!」

「あたしにお任せにゃー」



「君たちはさ、どうして普通にいるの? 平日だよ? 学業優先ってメールしたじゃん?」

「僕はお金が優先なので! 日当が出ると聞いちゃ、学校なんて行ってられません!!」



 チーム莉子のメンバーは学校があるため、小坂莉子と木原芽衣が欠席。

 塚地小鳩は久坂監察官室で所用を済ませてから、間に合えば合流する。


 六駆とクララは普通に学校をサボタージュ。

 年末に南雲が頭を下げて回った記憶は彼らにとって既に忘却の彼方へと飛び去ったものらしい。


 多分だが、南雲は3月辺りにまた頭を下げて回る未来が見える。


「南雲さん。そろそろ時間っすよ。第3訓練室でもう加賀美さんが待ってるっす」

「それはいけない。よし、仕方がないから行くぞ、2人とも」


 不良高校生と大学生ニートを引き連れて、南雲修一総指揮官が出陣した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「やあ! 逆神くん! 椎名さんも! 久しぶりだね!!」


 Sランクに昇進して、爽やかさにも磨きがかかった加賀美政宗が彼らを出迎えた。


「加賀美さん、昇進おめでとうございます! いやー! さすがですね! あなたはやれる人だって僕はずっと思っていましたよ!」

「ははっ! 逆神くんにそう言われると自信になるな! まだまだ新米のSランクだからね。みんなの足を引っ張らないようにするさ!!」


 南雲は無言で2人の会話を眺めていた。


「南雲さん、どうしたんですかにゃー?」

「どうにかして、加賀美くんをうちに引き抜けないかなと思ってね。人格者で実力があって逆神流の事情通。もう欲しい理由しか出て来ないじゃないか」


 それをやると雷門監察官が号泣するのでヤメて差し上げろ。


「ちぃーっす!! 屋払文哉、参上しましたんでぇ! よろしくぅ!!」

「ヤメてください、屋払さん。私が恥ずかしいです。青山仁香、現着しました」


 潜伏機動部隊の隊長と副隊長が続いて登場。

 「このノリは窮地の時に頼りになりそうだ」とメモを取る南雲。


「あっはは! すっごいアウェー感! どうも、こんにちはー。雲谷陽介です。もう、1人でよそ様の精鋭の中に交ざって来いとか、雨宮さんも酷いな。あっはっは」


 笑い上戸の凄腕スナイパー。雲谷陽介もやって来た。


「あとは和泉くんが来れば全員か。大丈夫かな、彼」

「……実は最初からここにおります。南雲さがふっ! 壁にもたれかかって呼吸を浅くしていましたのでげふっ」


「大丈夫じゃないね!? 和泉くん、早退する!?」

「お気になさらぶはっ! 南雲さんもよく噴いておられるじゃないですか……」



「私、血を噴いたのは生涯で1度だけだよ!? 和泉くん、既に私のパーソナルベスト更新してるんだけど!?」

「では、お言葉に甘えて……。小生はここで倒れておきます」



 吐血Sランクヒーラー・和泉元春。

 実は加賀美よりも先に来ていたのだが、生体反応が極めて弱いため誰にも気づかれなかったと言う。


 存在感がない個性はクララと被るので、チーム莉子のどら猫は本気を出さないと非常にまずい。


「えー。この度は諸君、重要で危険の伴う任務にも関わらず招集に応じてくれた事。これにまずは監察官を代表して感謝する。ありがとう!」


 今回の作戦概要は既に各監察官から口頭で伝えられている。

 書面の形にしなかったのは万が一の情報漏洩を防ぐためであり、フリーの和泉には五楼京華が直々に赴いた。


「アトミルカ相手なら、オレらに任せてくださいよ! マジ、何回も戦ってるんで! よろしくぅ!!」

「屋払さん。黙って下さい。恥ずかしいです。アイスピック首に刺しますよ?」


「ああ、いやいや。そんなにかしこまらなくても構わないよ。今日は本当に顔合わせしか予定していないから。と言っても、この場の全員はだいたい見知った仲だろうけども」


 南雲の言う通り、急襲部隊は探索員協会の中でも有名人の集まりである。

 各々がお互いを知っており、会話した事はなくとも活躍の噂は耳にする機会が多い。


「あなたが雲谷さんですか! 南雲さんがお腹刺された時に狙撃して助けてくれた! 凄まじい殺意のこもった煌気オーラでしたよ!」


「あははは。そういう君は逆神六駆くんだね。噂は聞いているよー。いや、もう、決勝戦が中止になって本当に良かった! あの状態の下柳さんにマウントポジション取ってタコ殴りにするのはただ事じゃないよ。あっはっは」


 雲谷が言っているのは、五楼京華が下柳則夫を斬り伏したのち『基点マーキング』を付けるために六駆が戦意を失くした下柳をボコボコにしていた件である。

 土埃で完全に視界は塞がれていたが、この敏腕スナイパーは視力強化スキルで事の次第を見ていたらしい。


「またまたぁ! 雲谷さんも相当デキるでしょ? 分かりますよー! 笑いながら目の奥が全然笑ってないんですもん!」

「あっはっは。逆神くんとはなんだか気が合いそうだなぁ! 君の後ろから敵の頭を撃ち抜くのが今から楽しみだよ! あははは!!」



 混ぜるな危険同士が混ざった気がしたと南雲は感じた。



「青山さん、よろしくですにゃー」

「ああ、椎名さん。よろしくね。対抗戦では集中攻撃してしまってごめんなさい」


「いえいえですにゃー。試合は試合、今は同じ部隊の仲間ですぞなー」

「ふふっ、そうね。今度はあなたの周囲を守らせてもらうわ」


 青山仁香の目標とする探索員は五楼京華。

 強く清く正しいを旨とする。

 きっと彼女は莉子や芽衣、小鳩とも上手くやって行けるだろう。


「コーヒー飲むかね? 和泉くん」

「よろしいんですか? げふっ。多分ですけど、小生、噴きますよ?」


「良いんだ。私も数えきれないほどコーヒーを噴いて来た。加賀美くんもどうだね?」

「頂戴します。……良いチームになりそうですね。さすがの人選です。やはり南雲さんが総指揮だと聞くと、ルベルバックでの戦いを思い出してしまいますね」


「あの時は本当に君に助けられた。今回もすまないが頼りにさせてくれ」

「微力を尽くします! 昇進査定を受けて過分な地位の身になりましたので、せめて和泉さんをはじめ、先輩方の築いて来たSランクの名を汚さぬように!!」


「ごふっ、げふっ。小生なんてただの虚弱体質な男ですよ。うゔぉ……。ほら、コーヒーを噴くこともできない。口の端から零れて行きます」

「うん。コーヒーを無理して噴かなくても良いんだよ?」


 こうして歓談により急襲部隊の親睦は深まる。

 かに思われたが、実力も個性も一級品のメンバーが集まれば、化学反応で思いもよらぬ事態が生まれる。


「おうおう、逆神! てめぇにゃ対抗戦での借りがあるからよぉ! ちょいとタイマン張ろうじゃねぇか! どっちが年長者か教えてやるぜ!」

「嫌だなぁ、屋払さん! 僕の方が上に決まっているじゃないですか!!」


 六駆は嘘を言っていない。

 だが、これは売られた喧嘩を買ったようにしか聞こえない。


 日本語と言うのは難しい。


「言ったな、てめぇ!? おっしゃ! いっちょ揉んでやる!」

「ええ……。どこを揉むんですか? やだー」


「うぉぉらぁぁっ!! 『ソニックダンス』!! おらおらぁ! 見えねぇだろ!!」

「受けて立ちましょう! 『瞬動しゅんどう』! ふんふんふんふんふんふんっ!!!」


 屋払と六駆が勝手に野良試合を始めた。

 ここでクララの出番。



「南雲さん、見て下さいにゃー」

「ぶふぅぅぅぅぅっ!! 何してんの、あの子たち!? また施設壊す気!?」



 加賀美と和泉は顔を見合わせて感想を言い合った。


「やはり、本家のコーヒー噴きは違いますねぇ。……ごふっ」

「これを見ると、南雲さんの下で戦う実感が湧いてきます」


 現在の時刻は午後2時過ぎ。

 莉子さんが下校するまであと1時間。


 持ちこたえられるのか。

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