第270話 逆神六駆の「えっ!? 今回って普通にお金貰えるんですか!?」

 五楼京華は語る。


「逆神。今や貴様の存在は、日本探索員協会において無視できない……と言うか、極めて重要なものになった。なってしまった。甚だ不本意だが」

「なるほど! 僕にしか下柳さんに付けた『基点マーキング』を元に『ゲート』を作る事が出来ないから、協会本部はどうしても僕の協力が欲しいわけですね!!」



「その通りなのだが、貴様。どうして金が絡むと急に賢くなる?」

「やだなぁ! 僕は普段から賢いですよ! うふふふふっ!!」



 つまり、来るべきアトミルカの拠点攻略作戦において、逆神六駆は既に絶対に必要なパズルのピースになったのだと五楼は言った。

 そうなると、話はもう日本探索員協会だけに留まらない。


 世界各国の探索員協会が共通の敵として対応しているアトミルカ。

 これまで影さえ踏めずにいた組織に銀の銃弾を撃ち込む機会を得られるかもしれない。



「う、うひょー! お金だぁ! なんかお金がいっぱいもらえる! うひょー!!」

 この男によって。



「それでな、逆神くん。我々としては、アトミルカにやられたままでいるつもりはない。ある程度態勢を整えたらすぐに反撃に打って出たいんだ。分かるだろう?」

「えっと、南雲さん? あたしが口を挟んで恐縮ですけどにゃー。六駆くんから、あっちで莉子ちゃんと手を繋いでダンスしてますにゃー」


 南雲は黙ってコーヒーを一口。

 芳醇な香りが心を落ち着けたと言う。


「分かった。小坂くん呼んでくれる? と言うか、逆神くん以外のチーム莉子のメンバーが聞いてくれたらいいよ。逆神くんは幸運とダンスっちまってていいよ」

「はいはいにゃー。芽衣ちゃん、こっち来てー! 小鳩さんもー! 莉子ちゃーん! 六駆くんの将来に関わる話が始まるぞなー」



「……椎名も普段は地味だが、普通にやるな。うちに欲しいぞ」

「ヤメてください、五楼さん。うちの逆神流濃度が上がってしまいます」



 芽衣と小鳩は素直に招集に応じ、莉子は「このまま六駆くんと手を繋いでたいなっ!」と言う誘惑を「六駆くんとの将来の話っ!!」と理性で断ち切った。


 これを理性と呼んで良いのかは有識者の判断にゆだねる事とする。


「実はね、各監察官室から精鋭を集めて、対アトミルカ攻略チームを結成しようと言う話がもうほぼ決まっている。うちからは、当然チーム莉子を推薦しようと思っているんだ」


「それって、わたしたちが行ってもお邪魔になりませんか?」

「小坂……。もうそれ、謙遜じゃなくて嫌味にしか聞こえんぞ。邪魔になる訳がなかろう。既にチーム莉子は日本探索員協会の中でもトップクラスの実力だ」


 五楼京華にここまで言わせたパーティーはチーム莉子が初めてである。


「はい! 質問がありますにゃー!」

「うむ。たまに喋るとだいたい重要な事のパターンが多い椎名くん」


「小鳩さんって久坂さんのとこから借りてる状態ですけど、これから先もチーム莉子にいられるんですかにゃ?」

「ああ、それも言っていなかった。久坂さんはアトミルカの55番を育てるから、小鳩さんは当分貸しておくとの事だ。つまり、ほとんどチーム莉子の正式メンバーと考えてもらって構わない」


 乙女たちが「わあ!」と沸いた。


「良かったぁ! 小鳩さん、ずっと一緒にいられますよぉ!」

「みみっ! 隠れられるお尻が2つキープできるのは何よりです! みっ!!」


「べ、別にわたくし、残りたいなんて言っていませんわよ!? 言っちゃダメなのかと思って、涙を呑んで黙っていましたもの! それが急に発表されて、今は何も言えませんわ! わたくし、ちょっと涙、よろしくって!?」


 チーム莉子はこれから先も5人で1パーティー。

 これは彼女たちにとっての朗報であり、今回頑張ったご褒美でもあった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「とりあえず、先にお金の話を済ませよう。はい、椎名くん。これ明細書。いつも通り、全員に同じだけ分配しておいた。5等分ね」

「はいはいにゃー。あたしの簿記2級が火を噴くぞなー!! あと、ずっと言おうか迷ってたんですけど、優勝賞金から1千万ピンハネしてますにゃー?」


「人聞きが悪い! 1千万は今回の事件で頑張ったAランクおよびBランク以下の探索員に分配するんだよ!」

「にゃははー。だろうと思ってましたにゃー。大丈夫ですぞなー。六駆くん、多分気付きませんしー。大金だと細かい計算できなくなりますからにゃー」


 クララの言葉で心の底から安心する南雲と五楼であった。



「えっ!? 今、お金の話しましたか!?」

「したよ。君は清々しいくらいにお金に敏感だな」



 椎名クララの報酬発表タイム。

 彼女が今回のリザルト画面を表示してくれる。


 対抗戦同時優勝の報奨金を5人で割って、1人につき400万。

 ファイトマネーは3回試合をしたので1人につき150万。

 六駆の賞金首ハンティングが200万。これは六駆のみの収入とする。


 合計で、逆神六駆が今回得た金額は750万円。



「ええええええええええええええええんっ!!」

「南雲さん、逆神くんが鼻血噴いて倒れました。白衣貸してくださいっす」

「君の白衣を使いなよ……って、もう私の白衣が血だらけじゃないか!!」



 南雲の白衣で止血されながら、六駆は幸せだった。


 だが、考えて欲しい。

 今回は六駆がいなければ、南雲は死んでいた可能性があり、協会本部も壊滅はしなかっただろうが、甚大な被害を受けていただろう。

 これは先に行われた監察官会議で出した、協会本部の総意である。


「逆神六駆をたった750万で動かせたのは、お買い得が過ぎる」


 六駆は見た事もない大金に浮かれてハッピー。

 協会本部は物的被害、人的被害の補償額が1千万にも満たない金で解決されてラッキー。


 誰も表情を曇らせない、ニコニコ明瞭会計がここにあった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでは、チーム莉子には先んじてアトミルカ攻略作戦の概要を伝えておく。……おい。どうして小坂がいなくなる?」

「莉子ちゃんなら六駆くんにひざ枕してあげるって喜んで走って行きましたにゃー」



「南雲。お前のところの最高戦力と準最高戦力が、あれか?」

「はい。見た目は高校生のバカップルです。私はもう見慣れましたよ」



 五楼は「……痴れ者が」と呟いて、作戦概要の説明に戻った。

 クララ、芽衣、小鳩が聞いていれば問題ないと彼女は判断したのだ。

 そして、それでだいたい合っている。


「決行予定は年が明けてからだ。1月。遅くとも2月中には行う。本当ならば1年ほどかけて万全を期したいが、それでは奇襲の優位性を失う」

「分かりやすく言えば、今回奇襲して来たアトミルカが、まさか短期間で奇襲され返すとは思っていないだろうって事だ」


「なるほどですにゃー。それまでは自堕落な生活を送って良いんですかにゃー?」

「いや、良くないよ? そうだった、椎名くん大学生ニートだった! 学業にも励んでもらうし、攻略チームでの合同訓練も予定してあるから!」


「みみっ。おじさまが一枚噛んでいるなら、芽衣は引退するです。みっ」

「木原さんは今のところ残留組だから、ヤメないでくれるか木原くん!!」


「でしたら、どなたが攻略チームの総指揮を執られますの? まさか、お排泄物のような南雲さんが選ばれるはずありませんし」

「うん。ごめんね。お排泄物な中年の私が総指揮官に選ばれちゃって」



「おい、山根。南雲は普段からこの調子なのか?」

「普段はもっとパッションで訴えかけていくスタイルっすよ」



 五楼はこの作戦が済んだら、南雲には有休をみっちり取らせようと決めた。


「そういう訳だから、逆神くんと小坂くんには本当に期待している! 一緒に頑張ろうじゃないか!」

「南雲さん! 五楼さん! アトミルカぶっ潰したら、お金貰えるんですね!?」


 上級監察官と筆頭監察官は顔を見合わせて断言した。



「アトミルカには他国でも賞金がかけられている。相当な額を払えると思うぞ」

「もしも本部を壊滅させるなんて事になったら、隠居待ったなしだよ逆神くん」



 お金が貰える。

 その言葉だけで、逆神六駆の闘志は燃え上がる。


 六駆は力強く「うひょー!!」と叫んだ。


 まさか、この「うひょー」が頼もしく聞こえる日が来るとは。

 逆神六駆はしばしの休息に入る。


 来るべき戦いの時に備えて。

 0の増えた定期預金の通帳を眺めてよだれを垂らしながら、その時を待つ。




 ——第4章、完。




◆◇◆◇◆◇◆◇



 いつも拙作にお付き合い頂きまして、ありがとうございます。

 ここまでの物語をお気に召してくださいましたらば、作品のフォロー、星での応援等、ご支援を頂けると幸いです。

 残念ながらドラノベコンは最終選考に残りながら落選すると言う1番アレなヤツになりましたが、皆様からの応援を糧にまだまだ頑張れます!

 どうぞよろしくお願いいたします。


 これからも拙作が皆様の日常のほんの箸休めの時間になるように、日々精進してまいります!

 気付けば連載を始めて半年が過ぎ、随分と遠くまでやって来ました。

 しょうもないお話で今しばらく皆様の失笑を買っていこうと決意しておりますので、どうぞお付き合い頂けますと幸いでございます。


 明日から5章突入!!

 頑張ります!!

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