第214話 金色の罠にハマった逆神六駆 常盤ダンジョン第3層

『さあ! チーム莉子も第3層へ! 古住こすみダンジョンの第3層にはメタルヒトモドキが発生しております! これは実に厄介!! 梅林軍団はやや苦戦している様子です! 下柳監察官、いかがでしょう?』


『ううむ……。これは少し、何と言いますかねぇ。対策が出来ていなかったと認めましょう。リーダーの梅林くん以外はメタルヒトモドキと初顔合わせですからねぇ』


 下柳は奥歯を噛み締めて悔しがる。

 それだけ対抗戦に並々ならぬ情熱を燃やしている証拠だった。


 一方で、南雲は先ほどからコーヒーが美味しくて仕方がなかった。

 下手をすると、今年で1番の味わいかもしれない。



 凶兆である。



 南雲も最近、何となく理解して来た事だった。

 「私がコーヒーを楽しむと、だいたい嫌な事が起きるんだよね」と先日、山根くんに愚痴った南雲。


 「多分、南雲さんは神様に嫌われてるんすよ。だから、大好きなものを味わう瞬間に悪魔が微笑むんです」と嫌な持論を展開されて、「そんなことあるかい!」と返した南雲だったが、ならばこの手の震えは何か。


 監察官きっての知恵者の異名を誇る南雲は、嫌な予感の正体を探る。

 古住ダンジョンにはメタルヒトモドキが出た。

 ならば、常盤ダンジョンにも似たような特性のモンスターが配置されているのではないか。



 メタル系の時点で大事故の予感しかしない。



『苦戦の続く梅林軍団! 少々長引きそうなので、常盤ダンジョンの第3層をじっくりと見て見ましょう! あーっと! やはりこちらにも現れました!!』


 南雲は「やはり来たか……」と観念する。

 メタル系を相手にすると、きっと六駆が暴走するだろう。

 今年も結局1回戦止まりだったかと南雲はコーヒーを啜った。



『常盤ダンジョンに現れたのは、なんと珍しい! わたしも目にするのはこれが2度目です!! 出ましたぁ! ゴールデンメタルゲルモドキ!!』

『ぶふぅぅぅぅぅぅっ!!!』



『これは大変失礼いたしました! 解説席の南雲監察官が良くないリアクションを取りました。お詫びいたします。しかし、それほどまでに強敵なのがゴールデンメタルゲルモドキ! 南雲監察官、コーヒーを噴き出すほどの脅威ですか!?』


 南雲はハンカチでメガネを拭いながら、短く答えた。


『最悪です。想定外の最悪です』



◆◇◆◇◆◇◆◇



「う、うひょー!! ゴールデンメタルゲルちゃんじゃないですか!! う、うひょー!!」


 有栖ダンジョンで六駆を虜にした金色のゲル、再登場。

 だが、諸君は既にご存じの通り、実のところこれはゴールデンメタルゲルではない。


 ゴールデンメタルゲルモドキ。

 その体長はゴールデンメタルゲルの5倍から8倍。

 別名、金欲の泥沼。


 その異名についての説明は恐らく必要ないかと思われる。


「う、うひょー!! 大きいですねー! 絶対に逃がさないぞー! ぐへへへ! 一撃で仕留める! ふぅぅんっ! 『鋭・瞬動脚エッジスクライド』!!」

「ゴパァァァッ」



 逆神六駆、ゴールデンメタルゲルモドキの体内に取り込まれる。



 ゴールデンメタルゲルモドキは、メタルゲルの系譜として反スキルの外皮を持っているが、彼らと大きく違う点がある。

 自分を価値のある獲物に擬態させる事で、襲い掛かって来る探索員を捕食する。


 存在自体が非常に珍しいので、ゴールデンメタルゲルの旨味を知っている者ほどこのトラップに引っ掛かりやすい。

 よって、金欲の泥沼と呼ばれている。


 たった今、金欲の権化が飲み込まれました。


「ちょ、ちょっとぉ! 六駆くん! 遊んでないで出てきてよぉ!」

「ごめん、莉子。まずい事になった」


「ほえ? どーゆうこと?」

「ふむふむー。パイセン分かっちゃったにゃー。この金色メタルゲルちゃんの偽物、スキルを反射するっぽいでしょー? だから、内側からスキルを撃つとですなー」


「みみっ! 六駆師匠にダメージが倍返しです!!」

「ええ……。逆神さん、トレーニングの時はあんなに荒々しかったのに、こんな単純なトラップに引っ掛かるんですの?」


 クララの見立ては正しかった。


 もちろん、六駆がちょっと本気を出せばゴールデンメタルゲルモドキの外皮など容易く破壊できるが、それをやると良くないハッスルが生中継されて、六駆は賞金を失い、南雲がアリーナで再びコーヒーを噴く。


 つまり、こういうことになる。


「申し訳ないんだけど、4人でどうにか僕を助け出してくれる? 穏便な方法で」

「にゃははー。むちゃくちゃな注文が来たにゃー」


 困った時はリーダーの出番。

 莉子は速やかにオペレーターを務める山根を呼び出した。


『はいはい。どうしたっすか? あー。だいたい分かったっす』


 さすがは山根健斗Aランク探索員。

 察しの速さは既にSランク。


「どうしましょうか? あっ! 確か、1回戦は映像だけですよね!? 中継されてるのって!」

『その点は大丈夫っすよ。映像だけです。だから、今のところセーフっす』


「山根さん、山根さん。あの金色メタルゲルの解析ってできますにゃー?」

『もう済みましたよ。えーと。外皮の反射力は80……。これは良くないっすねー。普通のスキルはほぼ弾くっすよ』


 反射力は100がマックスであり、50を超えると強力な反射属性持ち。

 80になると、クララと芽衣の手持ちスキルは全て弾かれる。


「……『苺光閃いちごこうせん』だったらイケますよね?」

『小坂さんが逆神くんを大事に思う気持ちはよく分かるっす。ただ、それは最終手段っすね。『苺光閃いちごこうせん』を使うと、南雲さんが多分お漏らしします!』


 手詰まりかと思われたその時、頼れる大人のお姉さんが立ち上がる。


「おーっほっほ! 仕方がありませんわね! このわたくしが窮地から救って差し上げますわ! 感謝するとよろしいですわ、逆神さん!! ですから、今度のトレーニングはより激しくしてくださいますわね!?」



 その交換条件で誰かが何かを得するのだろうか。



 ひとまず、小鳩がどうにかするらしい。

 反射属性を持つ手合いと対峙する場合、有効なスキルのひとつとして挙げられるのが突貫スキル。

 槍使いの気高き乙女、最初の活躍となるのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アリーナでは、捕まった六駆に注目が集まっていた。


『これはいけません! 逆神Dランク探索員、呆気なく捕獲されてしまいました! 彼はチーム莉子の中で最も低ランクの探索員! 先ほどからの行動を見ても、煌気オーラが尽きるまで働かせる作戦だったのでしょうか!』

『はい! その通りです! いやぁ、これは困りましたな!!』


 息を吹き返す南雲。


 まさか、六駆がこんなに理性的な対応を取るとは思っておらず、彼は神に感謝した。

 昨夜、焼肉屋から帰る途中に捨ててある空き缶を拾ってゴミ箱に入れた事が功を奏したのかと悟った南雲は、これから一生かけてポイ捨てを根絶して行こうと誓う。


『最初の山場を迎えております、両ダンジョン! 梅林軍団はメタルヒトモドキを少しずつですが凍らせてやり過ごしています! さすがはベテランの梅林Aランク探索員! 的確な指示です!!』


『ぐふふ。南雲さん、残念でしたなぁ? うちの梅林は機転が利きますからねぇ。これは大きなリードですよ?』

『いや、もう本当にね! 困った子だなぁ、逆神くんは! 本当に、ねっ!!』


『あーっと! チーム莉子は塚地小鳩Aランク探索員が前に出ました! 彼女は久坂監察官から出向中の謎の多き美人探索員! この窮地をどうするのか!?』


 南雲は今もどこかで戦っている久坂の事を思い浮かべる。

 そしていだく。感謝の念を。


 あなたの貸して下さった探索員は、うちのチームに欠かせない女性になりましたよと。

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