第181話 おっさんは時として投げてはいけないものをぶん投げる
「ほう、貴公は剣も扱えるのか。ますます帝竜や冥竜の申しておった逆神を彷彿とさせる!! その腕前はいかほどか!! 我が値踏みしてくれよう!!」
六駆くん、黙って秘宝剣・ホグバリオンを地面に突き刺す。
何か考えのあっての事だろうと、幻竜ジェロードは警戒する。
だが、六駆はその場から動かず、秘宝剣にも触れようとしない。
確かに、彼には考えがあった。
「僕を見て、親父を彷彿としたのか……!?」
その事実はあまりにも重く、切なく、ジェロードの繰り出して来た攻撃の中で最も六駆を傷つけていた。
暇さえあればパチンコに行って、母からは愛想を尽かされ、嬉々としてトラックで自分の息子を崇高な使命(笑)のために轢き散らかした六駆の父。
自分にその面影を見つけられたのなら、いっそ死のうとすら思えるほどの屈辱だった。
「グルゥゥゥアァゥ! どうした、逆神! 怖気づいた訳でもあるまい? 貴公ほどの者が! あの逆神の名を継ぐ者が!!」
「うっ! ぐぅぅう!! なんて精神攻撃だ!!」
その逆神の名前をうっかり継いでいるために受ける永続ダメージ。
一生背負い続ける呪いの装備である。
そんなしょうもない事情でピンチに陥っている六駆の元へ、援軍がやって来た。
南雲のサーベイランスである。
『どうした、逆神くん! 苦しそうだな!? 毒でも喰らったか!?』
「はい。とんでもない毒を吐かれました。僕を見て、親父を思い出すんですって」
『うん。うん? そりゃあまあ、お父上と同じ血が流れてるんだから。ねぇ?』
「うわぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
南雲監察官、六駆に追撃をかける。
だが、彼は悪くない。
六駆も悪くない。
現世で饅頭の取り合いを四郎と繰り広げて、結果70過ぎのじいさんに押し負けた逆神大吾が悪い。
「ジェラートさん。いえ、ジェロードさん。ひとつお願いがあります」
「ふふっ。よもや、この期に及んで敵に何を願う?」
「僕があなたを倒したら、親父と僕は赤の他人って事にしてくれますか?」
「グルゥアアァ! すまぬが、意味が分からぬ!!」
古龍を困らせ始めた六駆おじさん。
幻竜ジェロードは死に場所を見つけてここまでやって来たのに、変な事を変なタイミングで言うのはヤメろ。
「もう一度言います。僕と親父を赤の他人って事にしてくれたら、本気でお相手します。何なら、お墓も作って差し上げます。墓標も付けます」
「ぐっははは! 面白い! 父を超えると申すか! 良かろう、その申し出、受けたぞ!」
六駆の表情に活力が戻って来た。
南雲はモニター越しに考えていた。
「この子、よくガチった古龍と世間話ができるなぁ」と。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「こちらも出し惜しみはせぬぞ! 『
「おお! すごい! 首が9つになった! でも、8個は幻ですね」
「ふははっ! 我の名は幻竜! ただの幻と侮るなかれ!! 喰らえ、『
「むっ! これはまた、すごいスキルですね!! 『
六駆は咄嗟に回避行動に出た。
相手のスキルを1度も受けずに避けるのは、彼の戦闘スタイルにしては珍しい。
その理由は、ジェロードの奥義にあった。
彼の九つに増えた竜の首。六駆の言うように本体以外は幻である。
だが、ジェロードは幻を実体化させる事ができる。
これこそ彼が幻竜と呼ばれる所以。
幻は時として幻のままで、ある時は真実を捻じ曲げる幻として、変幻自在に相手を翻弄する。
つまり、六駆はジェロードの出す幻を全て本物だと認識しながら戦わなければならない。
「よもや翼も持たずに宙を駆けるか!! だが、我が尾も自在に舞う! 『
「あいたたたたっ!! 想定よりもずっと速い!! しかも結構硬い!!」
今回の攻撃は9ある尻尾のうち全てが実体化。
さすがの六駆もこれほどまでに巧みな幻を操られると、何発かは被弾してしまう。
「仕方がない! 剣を使うしか!!」
「来るか、逆神六駆!!」
六駆は秘宝剣・ホグバリオンを手に、再び宙を滑走する。
そこに襲い掛かるのは九つの鋼よりも硬い尾。
「
六駆の剣技の師匠は父の大吾。
大吾の基本戦闘スタイルは古龍たちが言っていたように、剣技とスキルを組み合わせて戦う、剛と柔の一体型。
その指導を受けていた六駆は、異世界転生
剣技の良いところは、
では、なにゆえこれまで彼が頑なに剣を使わなかったのか。
思い出して頂きたい。
彼は探索員になってからここまでの戦いで、『
それも全て、親父のイメージが悪すぎるせいである。
幻竜ジェロードとの初戦で、彼は山嵐の得意スキルである『ガイアスコルピウス』を使用している。
山嵐も相当にイメージが悪いはずなのに、である。
六駆くんの親父嫌いは、結構深刻なものであった。
「グオオォォ!? こやつ、幻を斬りおった!?」
「
親父である。
「ならばぁ! これをどう避ける!! 『
「ふぅぅんっ! 一刀流! 『
六駆の一太刀は、襲い来る9つの黒炎を全て切り払った。
このスキルは空間を切り裂く。
ならば、無属性の炎だって例外ではない。
「ぐぅぅっ! ならばこの牙で噛みつくのみ!!」
「それを待ってましたよ!! ふぅぅぅぅぅんっ! ぶっ飛べ、秘宝剣!!」
六駆は捨て身で攻撃を仕掛けて来たジェロード目掛けて、ホグバリオンを全力で投げつけた。
幻をいかに実体化しても、体の中心に対する攻撃は回避のしようがない。
幻竜ジェロ―ドに致命傷を与えるならばこの方法しかないと彼は知っていた。
「グオォォオォォ……!! 見事……!!」
「あなたこそ。竜にしとくには勿体ないほど強かったですよ!」
こうして、幻竜ジェロードは全ての力を出し切り、満足そうに倒れた。
六駆もいつになく爽やかな表情をしている。
まるで勇者のようである。どうした、逆神六駆。
『逆神くん。お疲れ様』
「南雲さん。僕、やりましたよ。親父との関係を断ち切りました!」
『うん。こんなこと言いたくないけどね。幻竜が死んだら、その事実を語る者はいなくなるよね』
「……あっ」
『もう一つだけ良いか? 逆神くん、秘宝剣ぶん投げてたけど、良かったの?』
「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ぼ、僕はなんて事を!!!」
現世に持って帰るつもりでウキウキしていた、ホマッハ族の作った秘宝剣。
今は幻竜ジェロードの背中に深く突き刺さっており、とても取り出せそうにない。
さらに、新たな逆神伝説の語り部まで亡くそうとしている。
損失ばかりが増えていく現状に、六駆は天に向かって吠えた。
「ちくしょう! こんなのってないじゃないか!! この世界の神は鬼か悪魔だ!!」
悪魔の君がそれを言うのか。
~~~~~~~~~
【お詫びと訂正】
いつも拙作にお付き合いくださり、ありがとうございます。
つい先ほど、「明日の更新しようかしら」と原稿チェックをしていたところ、幻竜ジェロードの「ー」が全て「―」になっていると言うミスに気が付きました。
非常に細かい事ですが、読者様の中には「こいつこれで作家名乗ってんのかよ、頭もげろ!」と憤っておられた方もいらっしゃるかと思います。
大変申し訳ございませんでした。
なお、現在は全て正しい表記に修正しております。
サブタイトルの表記まで全て「―」だった事には目を疑いました。
読者様にはもちろんのこと、初登場からこれまで、1度としてまともに名前を書いてもらえていなかった幻竜ジェロードさんにも深くお詫び申し上げます。
ちょいちょい誤字や誤変換をしでかす作者ですが、今後は再発防止に努めてまいります。
「ー」と「―」の違いだけで大げさすぎじゃね? と思われた方、実は私も謝罪文を書き始めて3行目くらいでそう感じておりました。
それでは、拙作を引き続きお楽しみくださいませ。
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