第91話 逆神六駆と南雲修一の共闘
異世界転生
中学生が自由帳に書いた妄想の話だろうか。
違う。
紛れもない事実であり、逆神六駆の今を作り上げた過去の話である。
「た、確かに、異世界によっては時間の流れが違う場所も多い。そんな世界に転生して、現世に回帰する事を繰り返せるとしたら、うむ。……君が17歳なのに、中身は46歳で私よりも年上だと言う話にも筋が通る。と言うか、君の頭おかしくなりそうなスキルの数々もそう考えると納得できる。……ええ。すごいなぁ、君の家」
南雲は論理的に考えた。
こんな妄言、聞く価値などない。とは、言えないのが彼のロジック。
不可解な部分の整理を順序良くこなしていった末に待ち構えていたのは、現代社会に巣くうとんでもない一族の存在だった。
「いやぁ、クララ先輩がバレたら協会本部に消されるとか言って脅すんだから! ずっとビクビクしてたんですよ、僕! もう、嫌だなぁ!!」
「うん。……うん。絶対にこの件はここだけの話にしよう。下手をすると、本当に消されるよ。逆神くん。私の想定の200倍くらいヤバい話だった」
「ええっ!? そうなったら全面戦争じゃないですか!! やだー!!」
「ちょ、え!? わ、私が全力で君の存在を隠匿するから!! 早まった行動だけは取らんでくれ!! もう、命かけるから!! 君、本当にやるって顔してるもんね!?」
こうして、逆神六駆の秘密が少しだけ外部に漏れて、何故だか知らないが上手いこと転がった結果、監察官の後ろ盾をゲットしていた。
チーム莉子にとっては願ってもない
自然と士気も高まる。
その前に、六駆は仕上げを済ませなければならなかった。
「
「ああ! これから背中を預けて戦う仲間を売るような真似は絶対にしないよ!!」
加賀美政宗の株が、六駆の中で急騰した。
彼に、「お子さんの入学祝にちょっと包ませてもらわなくっちゃ」とまで思わせるのは大事件である。
続いて、『
「君らはアレだ。秘密を漏らしたら、その次の瞬間には僕が背後に立ってるから。その先は言わなくても分かるね?」
12人全員が逆神六駆被害者の会に属している鼻くそ連合軍。
「イエス」以外の言葉を忘れた様子であった。
話は今度こそ纏まった。
ならば、この厄介事を早いところ片付けてしまおう。
「南雲さん。結構戦えますよね? すごく穏やかで高密度な
「ちょ、ちょっとぉ! 六駆くん、失礼だよぉ!!」
慌てるパーティーリーダー。
莉子のメンタルケアが急がれる。
この戦いが終わったら、たらふく美味しいものを食べさせてあげて欲しい。
「いやいや、良いんだ、小坂くん。事実、逆神くんは私よりもはるかに強いよ」
監察官の地位にありながら、事実を事実として受け止める寛容さを持つ南雲。
人は地位や権力を得ると謙虚さを失ってしまうものと言われているが、その点に関しても南雲は人の上に立つ資質を備えていた。
「ダンジョン内の戦闘って事になると、雑魚が多くなれば邪魔じゃないですか」
「うん。言い方がアレだが、確かに君の言う通りだな」
広大な平原で戦をするのと、ダンジョン内での集団戦は性質が異なる。
理想的な布陣は、最強の矛をもってして敵陣を蹴散らし一挙に制圧。これに限る。
「僕と南雲さんの2人で、とりあえずダンジョンからルベルバック軍を叩き出しましょう。多分、最深部も近いですよね。その後の事は、相手の出方次第ってことで」
六駆の
だが、無駄が一切ない美しい作戦だと南雲も同意する。
「分かった。その策でいこう。加賀美くん。それから小坂くん。2人で後衛の指揮を執ってくれ」
「ふぇぇっ!? わ、わたしですか!?」
「仕方ないよ、莉子。加賀美さんは単身で来てくれたんだし、鼻くそ連合軍の特性も知ってる人間って、うちのパーティーだけだもの。で、君はうちのリーダー!」
「そうだね! 小坂さん、自分も出来る限りサポートするから! 君の部下だと思ってみんなに指示を出していいよ!」
莉子はプレッシャーに押しつぶされそうになるものの、六駆を見ると不思議なことに心が落ち着いた。
彼が、意識してか無意識かは謎だが、自分のために矢面に立とうとしている事が分かったから。
そして、彼女は六駆の相棒だから。
「が、頑張ります! クララ先輩、芽衣ちゃん! やるよぉ!!」
「お任せだにゃー! リーダー!!」
「芽衣はどこまでもお供するです!!」
共犯者同盟にそれ以上の理由は必要ないかと思われた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「よっしゃあ! 暴れますよ!! 殺さない程度に本気出して良いんですよね!?」
「ああ。必要ならば非情な選択肢も取らざるを得んが、相手の国の情勢が分かるまではできるだけ穏便に済ませたい。もしかすると、現世の探索員が絡んでいるかもとなれば、なおさらだ」
第16層のバリケードを六駆は『
「私も足手まといにならないようにしなくてはな。『
それに続くは、協会本部の選ばれし8人が1人、南雲修一監察官。
いや、この場ではSランク探索員と呼ぶべきかもしれない。
彼の専用武器は多岐にわたるが、今回持参した4番装備は2本の形の違う刀。
もちろんイドクロア製の武器であり、南雲専用に彼自身が研究、開発をした逸品。
右手の白刃は
「おおっ! カッコいいですね! 僕もそういう装備作ろうかな?」
「ありがとう。しかし君は具現化スキルも極めているだろう? 必要ないのでは?」
「いやー。いくつになってもカッコいい武器には憧れるものですよ。おっと、敵さんがいましたよ! また、ご丁寧に固まってくれちゃって!」
「よし。ここは慎重に行」
「ふぅぅぅんっ! 電撃スキルなら多分死なんでしょう! 『
御滝ダンジョンにて人工竜・リノラトゥハブを一撃で葬った、六駆の放つ殲滅の光が来迎した。
「て、敵襲! 敵襲です!! 全員、『アスピーダ』を!!」
「ぐえぇぇぇっ! 『アスピーダ』が飲み込まれるぅぅぅ!!」
ルベルバック軍の
だが、ものには許容量と言うものがあり、どれだけ底の深いグラスでも水を注ぎ続けるといつかは溢れる。
『
「南雲さん! 行きますよ! さあ、二刀流を見せて下さい!! さあさあ!! いやぁ、楽しくなってきた!!」
「うん。逆神くんはアレだな。ちょっと、心のケアが必要だな」
南雲は思っていた。
「穏便に済ませたいって言ったのに、この子やってる事が全然違うんだけど」と。
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