第76話 帰還 芽衣の装備を整えるべし 日須美ダンジョン探索課事務所
日須美ダンジョンの最深攻略パーティーは、
総勢12人の大所帯。
だが、山嵐組は無条件降伏でチーム莉子に白旗を振る。
ファビュラスダイナマイト京児は、梶谷がファビュラスじゃなくなったため戦線復帰には相当の時間がかかると思われ、ここで最深攻略パーティーが入れ替わる。
御滝ダンジョンに続いて、日須美ダンジョンでも先頭に躍り出たチーム莉子。
その事情を理解した莉子は、まず山嵐助三郎に話しかけた。
「あの、別にわたしたち競争してる訳じゃないので。あ、いや、一応競争してるのかなぁ? とにかく、ダンジョン攻略って社会のためにするものじゃないですか。だから、わたしたちに気を遣って攻略を辞めるのはなしにしてください」
莉子の心の清らかさに、山嵐助三郎は今度こそ改心を決めた。
「前にあんなひどい事をした俺たちを、許してくれるのか!?」
「えっ? 許してないですよ? 何年か経っていれば笑い話ですけど、先月の事ですよね? むしろ、どうして許されたと思ったんですか?」
言う時は言う乙女、小坂莉子。
その毅然とした態度が、山嵐に刺さる。
なお、山嵐以外のパーティーメンバーは既に「うちのニワトリに見切り付けて、この女の子のパーティーに入りてぇなぁ」と意見を一致させていた。
「とにかく、あなたたちがやった事とあなたたちが攻略を中止するのは話が別だってことです。悪いと思っているのなら、しっかり社会のために攻略を進めて下さい!」
「莉子ちゃんいい子だにゃー」と頷くクララ。
「小坂さん、大人です」と姉弟子を見つめる芽衣。
「僕なら反省するふりして、莉子が学校行ってる間に最深部目指すな!」と汚れ切った考えを発揮する六駆。
とりあえず小競り合いの決着はついた。
ここは道を譲ると山嵐組が言うので、それならばとチーム莉子は先に進むことになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
第10層のモンスターはそれなりに手ごわい。
莉子とクララが同時に相手をしなければならない敵も増えてきた。
たまに援護をしながら芽衣に『
彼は、リーダーに意見具申した。
「莉子。そろそろ一旦地上に戻ろうか。まだみんな余裕がありそうだけど、そこそこイドクロアも採れたしさ。芽衣の装備を作ってあげたいんだよね」
珍しくまともな事を言う六駆。
実は割とまともな事も言っている六駆なのだが、たまに顔を出すアレな発言のインパクトが大きすぎるため、まともなセリフの印象はすぐに消え失せる。
それはそれとして、彼女が提案に反対する理由はなかった。
「そだね! 芽衣ちゃん、配給装備だもんね。いざって時に危ないし。あとあと! やっぱり女の子なんだから、可愛い装備にしたいよねっ!!」
そして、莉子さんの乙女心に火が付いた。
「どうしよっかぁ! わたしが赤で、クララ先輩が黄色だからー! んー。緑かなぁ! 芽衣ちゃん、ビタミンカラー似合いそう! ねっ、クララ先輩!!」
「んだんだー! もしくは、青もアリじゃない? 芽衣ちゃんが青の装備をしたら、三原色トリオになるにゃー! これは映えるよ! インスタにアップ、アップ!!」
「えっ。あの。芽衣は装備を頂くなんて、そんな。恐れ多いです」
「何言ってるのぉ! 芽衣ちゃん、もう仲間なんだから! 遠慮はなしだよぉ!」
「あたしもこの弓、莉子ちゃんに作ってもらったんだよねー!」
「あ、あぅ。逆神師匠? 師匠は配給装備のままなのです?」
「ええっ? ごめん、聞いてなかった!! こいつぅ! ふぅぅんっ!!」
六駆くん、ガールズトークには着いていけないので、たまたま目の前を通りかかったイドクロア持ちのモンスター、ゴンズホーンと追いかけっこをしていた。
ゴンズホーンは巨大な羊のようなモンスターで、その角がイドクロア。
六駆にとって、手加減してイドクロアを傷つけないようにモンスターを狩るのは一苦労なのだ。
過ぎた力の調整は彼の専門外。
「スカートにする!? それとも、わたしとお揃いのショートパンツ!?」
「芽衣ちゃん、月刊探索員のグラビアだとミニスカだったよねー! やっぱ、女の子は脚出してなんぼだにゃー!」
「え。いえ、あれは協会の人に着ろって言われたので。芽衣の趣味じゃないです」
「じゃあ、わたしとお揃いにしよっ! 六駆くんの弟子で統一!!」
「待ってよー! あたしがひとりでミニスカは寂しいぞなー! 芽衣ちゃんはスカートヒラヒラさせたいよね? ねー?」
「そ、その。こういうのは、師匠に決めてもらわないとです。逆神師匠」
「えっ!? 僕のこと呼んだ!? 『
六駆くん、無事にゴンズホーンの角をゲットする。
ちなみにそこに至るまで8つのスキルを使っていたため、辺り一面が穴だらけになっていた。
結局、30分に及ぶガールズトークの結果、芽衣の装備は緑のミニスカートと決まったらしかった。
六駆は「ああ、良いんじゃない!」と実に適当に返事をする。
女子の服装についておっさんがコメントすると、高い確率でセクハラになる事を彼は莉子との日々で学んでいた。
何度「今日のスカート短いんじゃない? それ、捲れちゃうんじゃない? 大丈夫? 見られても平気?」としつこく絡んで「おじさんウザい!」と叱られただろうか。
学習能力はまだ人並みにあるつもりの六駆は、価値ある沈黙を貫いて、粛々と自分の仕事をこなす。
良い感じの岩陰を発見して『
そののち3人の元へと戻り、反則スキル『
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ああ、お帰りなさい! チーム莉子さん! ……木原さんじゃないですかぁ!? えっ、チーム莉子に入られたんですか!?」
チーム莉子のリザルト画面登場。
名前を呼んであげないと忘れられてしまう存在、彼は本田林。
「本田林さん、装備の申請書ください! 芽衣ちゃんの新装備を作るので!」
「あ、はいはい! すぐにお持ちします! こちらですね! どうぞ!!」
莉子とクララに連行されるように、芽衣が更衣室へと消えていった。
体のサイズを測るらしい。
ならば、おっさんはただ黙って見送るのみ。
「今回、イドクロアは換金なしで。なんか貴重なのもあるっぽいので、全部装備に回してください。討伐報酬だけお願いします」
「かしこまりました! 逆神様もついに装備を作られますか!!」
「いえ、芽衣のヤツですよ。僕はこれで充分です」
「ああ、そうですか。こだわりなんですねぇ。はい、討伐報酬の査定が出ました。ご確認ください」
日須美ダンジョンのモンスターは、やはり御滝ダンジョンに比べて小粒。
そのため討伐報酬も160000円と少しだった。
それを「4等分でお願いします」と言った六駆。
少額の報酬に落胆するどころか、彼の目はやる気に満ちていた。
実質的に攻略の先頭を走る事になったため、最深部にさえ行けば攻略報酬の保証額である500万が手に入る。
ならば、今は静かに準備をするだけ。
チーム莉子は装備が仕上がるまで、3日間の休養に入る。
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