第71話 逆神六駆の直感 日須美ダンジョンから漂う危険な雰囲気

 莉子とクララは単身では勝てない相手を前に、合体スキルというコンビネーションで乗り切る術を覚えつつあった。

 こんなシチュエーションでもない限り、精神を研ぎ澄まさなければ成功しない妙技の習得は叶わなかっただろう。


 罠にはハマったが、結果として得るものはあったと六駆は考える。


「みみみみみみっ! みっ! みぃぃっ! みみみっ!! みみみみみっ!!!」


 一方、芽衣は驚異的な瞬発力で鎧兵の攻撃を全てかわしていた。

 一太刀たりともその身に鎧兵の剣は当たっておらず、先ほど教えたばかりの『瞬動しゅんどう』を使いこなせるようになったのも、彼女の必死さに起因するところ大であった。


 だが、彼女はやはりまだまだ戦闘に送り出すには早すぎる。

 六駆の与えた『貸付槍レンタランス』を秒で投げ捨てた事だけを見ても、それは明らか。

 その正しくない思い切りの良さには、師匠もうっかり感心するほどだった。


 それはさておき、どれだけ敵の攻撃を上手く避ける事ができても、結局攻撃をしなければ戦いには勝てない。

 勝てない戦いをどれだけ減らせるかが生き残るための一番スマートな方法であり、芽衣の今後の課題もハッキリと浮かび上がった。


 そうなると、もう鉄の鎧兵たちに用はない。

 3人の消耗も激しいことだし、速やかに消えて頂こう。


「はい、お疲れ様! あとは僕が引き受けるよ! 『大戒重だいかいじゅう』!!」


 超広範囲に何十倍にもおよぶ重力の負荷をかけるスキル、『大戒重だいかいじゅう』。

 こちらは六駆の父親、大吾が考案した。

 大吾は面倒を嫌う大雑把な性格のため、広範囲攻撃や一撃で複数の敵を薙ぎ払えるような特性のスキルを数多く創り出している。


 ゴリゴリゴリとなんだか耳障りな音を残して、鎧兵たちは全て鉄塊と化した。

 そしてお待ちかね。

 やった後に六駆が気付くパターンである。


「あああああ! しまった! 1体だけでも残して、探索課に提出すれば良かった! 絶対新種のモンスター扱いされていたのに! ちくしょう!!」


 新種のモンスターは記録石に保存された情報だけでも討伐報酬が出る事は覚えておいでだろうか。

 その後、莉子に教えられて六駆は知ったのだが、新種のモンスターの部位を持ち帰ると研究素材として探索課が買い取ってくれるのだ。


 彼はいつものように、勢い余って一儲けし損ねていた。

 これでこそ逆神六駆。

 急にデキる男の渋い活躍をされると積み上げてきたほんわかぱっぱなイメージが崩れそうになるので、ヤメて頂きたいものである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こうして、鉄の鎧兵は全滅させた訳だが、まだ事が済んだとは言えない。

 チーム莉子は、未だ巨大な壁の中に閉じ込められている。


「ふぁぁ。疲れたぁ。やっぱり慣れない事をするといつもの何倍も疲れるよぉ」

「あたしもだにゃー。『Xの衝撃クロス・インパクト』ってタイミングが重要だから、一発撃つのも一苦労だねー」


「はいはい。みんな。回復のお時間だよ。『観察眼ダイアグノウス』で診るから、並んだ、並んだ」


 六駆のスキルを知らない芽衣が、彼に尋ねる。


「あの、逆神師匠。芽衣の体は子供なので、見ても興奮しないと思うです。けど、師匠がそーゆう体を見て興奮すると言うのなら、芽衣は覚悟を決めるです」



「ごめん、ちょっと待って! 芽衣の声のトーンで言われると、僕が本当にそういうタイプの人間に聞こえるから、マジでヤメてもらえるかな!?」



 まだイメージを気にしていた事に、我々は驚きを隠しきれない。

 六駆よ、今更ロリコンの汚名を着せられたところで、それほどイメージは低下しない。

 安心して『観察眼ダイアグノウス』を使うと良い。


「ああっ! 莉子、腕に切り傷があるじゃない! ちゃんと言ってよ! どうするの、僕が見落としてたら!」

「六駆くんは見落とさないでしょー? だって、結構真剣にわたしたちの事を見てくれてるもん! 知ってるよ?」


「あ。やっぱり、逆神師匠は見て楽しむタイプなのです? 芽衣は覚悟を決めましたです」


 六駆と莉子のちょっと甘いシーン、芽衣によって叩き潰される。

 彼女にも、重力操作系のスキルが似合うかもしれない。


「『気功風メディゼフィロス』! はい、クララ先輩と芽衣には『注入イジェクロン』で煌気オーラの補給もしますよー。芽衣はタイツが邪魔だね。装備を変える時にはデザイン考えないと」


「逆神師匠。太ももが好きです?」


 変態の烙印を押される無限ループに突入している六駆。

 さすがに気の毒になってきた莉子が、芽衣に『注入イジェクロン』による煌気オーラ回復の流れをレクチャーした。


 クララは何をしているのかと思えば、自分たちを閉じ込めている壁を触っていた。

 思い付いたことがあるらしく、莉子と六駆に声をかける。


「ねー。この壁ってさ、もしかしてイドクロアじゃないかなー? もう、漂う異世界感がすごいんだけどー」


 2人は答えた。


「確かにそうですね! 研究のためにどうにか採取できないかなぁ?」

「お金のために全力で採取しよう! 『突貫撃ガンギオル』!!」


 六駆の突き出した拳から、異世界に住む幻獣の爪が伸びる。

 あれだけの戦闘にも耐えていた謎の鉱物で出来た壁が一瞬で砕けた。


「さっすがー。んじゃ、回復終わったあたしが収集箱に入れとくにゃー」

「芽衣は『注入イジェクロン』使うから、じっとしててね」


「はいです。逆神師匠のされるがままになるです」

「……君はアレだな。発言がいちいち危ない。鍛えなくても結構強力な武器を持ってるよ」


 そんなこんなで回復も完了。

 隠し部屋の罠を突破したチーム莉子。


 結局、秘宝とは縁がなかったが戦闘訓練にもなったし、イドクロアも収穫できたので無駄足にはならなかった。

 それは良かったのだが、六駆にはとある疑念が浮かんでいた。


 様子を察した莉子は、彼に質問する。


「どしたの? 何か気になる事があるって顔だけど?」

「ああ、うん。今の隠し部屋さ、明らかに探索員を狙った罠だったじゃない? 異世界側が仕掛けたものだとしたら、どうして探索員の行動をそこまで熟知できるのかなと思って」


 莉子はすぐに悟った。

 「仕事のできる時の六駆くんだ!」と。


「えっと、つまりどういう事かな? もしかして、異世界が探索員を狙い撃ちにしてるってこと?」

「いや、そこまで断定はできないし、偶然だった可能性も大いにあるし。なにより、根拠が僕の直感だから、当てにはならないんだけど。なんかこのダンジョン、思ってたよりも危険な気がするんだよね」


 クララも会話に加わる。


「それなら、攻略をヤメるかにゃ? 今の六駆くんの所感をレポートにして、探索員協会本部に送ったら、もしかすると対応してくれるかもだぞな?」


 六駆は答える。声を大にして。


「とんでもない!! むしろ、一攫千金チャンスじゃないですか!! 危険が増えれば、ライバルは減る! つまり、イドクロアも異世界との繋がりも攻略完了報酬も、全部僕たちのものですよ!! いやいや、興奮して来たなぁ!!」


 莉子はまた悟った。

 「あ。いつものいやらしい考えの六駆くんだ」と。


 そんな彼に安心感を抱く、危険な莉子さんである。

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