第511話その目から逃れるのは至難の技
限界まで上げたスピードに筋肉と肺が悲鳴を上げ立ち止まるも少し呼吸を整えすぐさま魔獣の海へ駆けて行く。
身体の悲鳴に否が応でも自分は人間止まりなのだと思い知らされる。
今までは才能など無くても努力で強引に何とかしてきたが、今回ばかりはどうにもこうにも限界とやらが見え始めた様である。
「コンラッドの兄貴、今日は珍しくヤル気じゃねぇかっ!? いつもの飄々としたコンラッドの兄貴は卒業かい?」
「そんな生き急いでいたら早死にするわよお? おじさんなんだから少しは身体を労わらないとぉ〜」
「全く、なら若いお前達が動くんだな」
そしてそんな俺を見て赤と紫が話しかけてくるが散々な言われようである。
赤は言わずもがな紫はこの国では珍しい黒髪をまるで自慢するかの如く腰まで伸ばしており手入れが行き届いているのが一目で分かる程艶が艶やかに光っている。
その身体はスラリとしており雌馬の様に美しいのだが今は黒い軽装備を身に纏い馬と言うよりかは麒麟、若しくは黒い毛並みが美しい黒馬の怪物、夢魔の様でもある。
ただ一見女性としてはある種完璧な彼女であるのだが唯一の欠点のみは未だに膨らみもとい成長は見られず絶壁──
「……おじさん、早く死にたいのかしら?」
──これ以上はヤバそうなのでその点については深く考えるのはやめておこう。
そんな彼女の名前はライリー・ガルシアであり黒槍と言えばライリーである。
彼女はスキルと魔術、主に炎魔術を駆使してそれこそ麒麟の様に縦横無尽に魔獣達ひしめくこの場所を軽快に飛び跳ね、馬の様に力強く駆け巡って行く。
黒と赤を撒き散らしながら魔獣の血を降らし駆け巡るその様は彼女こそが紫であると誰しもが納得するであろう。
しかし、そんな光景も次の瞬間には銀の一撃により様変わりしてしまう。
後方、それも何十キロと離れた王城の中から彼は狙撃し、あたりをその一撃を横に移動させ魔獣達を薙ぎ払って行く。
この障害物がない場所では彼から逃れる事は例えドレイクやワイバーンなどの亜種であっても不可能であろう。
彼の名はリッカルド・グレーでありライリーが黒馬ならば彼は銀翼の大鷹であろう。
その目から逃れるのは至難の技である。
そんな彼の武器は何と言っても魔力量そのものである。
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