第510話一歩でも遠くへ一秒でも速く

 この王国には西側に大きなダンジョが三つあるのだが別段貴重なアイテムやモンスターと言った資源がある訳でも無い上に、たまに魔獣が外に出ては来るのだが氾濫程ではなく長年ほったらかしにされているダンジョである。


 しかしそれはあくまでも表向きであり実際はブラッド・デイモンが定期的に魔物を間引き、そして時には王国の人口を減らす為に人為的に三つのうちどれかを小規模で氾濫させいたのである。


 まさにブラッド・デイモンは自身が言っていた通り王国の人間を自分の飯の為に飼っていた家畜として育てて来たのであろう。


 そう思うと三つもダンジョンが近くにあるこの場所はブラッド・デイモンにとって家畜を管理及するには最適な環境であったであろう。


 これらはあくまで推測でしか無いのだがブラッド・デイモンが引きこもって数ヶ月でコレである。


 今まで過去に三つのダンジョンが同時に大規模な氾濫を起こしたという記述すら無い事もその信憑性を高めている。


 この三つのダンジョンは氾濫も特に起きず、起きても小規模だという事が異常であると普通であればすぐに思うものであるが長年の歴史がそれを考えさせない、ある意味で国民を洗脳していたのであろう。


 付近に三つもダンジョンがあれば定期的に氾濫が起きるこの光景こそが普通なのである。


 ならば我々は本来それが起きる前に食い止めなければ成らず、しかし五百年にも渡り刷り込まれた作られた常識によってそれをせず、今の状況を作っているのである。


 それはブラッド・デイモンがこの王国を捨てる時まで考えられている事が伺える。


 そして何よりブラッド・デイモンはダンジョンを実験場でありコレクターを飾る空間として利用していたのだが、近場のダンジョンも手付かずの筈が無い。


 本当、俺が死ぬまで本性を隠して欲しかったとあの日から常々思ってしまう。


「………推して参る」


 その溜まりに溜まった苛立ちを俺は剣に込め初速から最速で魔獣を刈り尽くして行く。


 その後ろで「待ちなさいよっ!! 逃げるな!! 教えなさいよおおおおおおっ!! 気になるじゃないぃいいいっ!!」という絶叫が聞こえる気がするが相手するだけ疲れるだけである。


 一歩でも遠くへ一秒でも速く。


 速く。


 速く。


 速く。


「っ……はあっ!! はあっ! ……はあっ………シッ!!」


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