第507話唐変木に成るべくして成った男

「むしろ買う理由が無いし独身なのも関係無い。なんならお前も──」

「お前も……何? 言って見なさいよ。その続きを」


 これだから女って奴はめんどくさいと常々思う。


 自分から言って来たくせに自分が言われるのは嫌なのかよと心の中で悪態は吐きつつもポーカーフェイスでそれを隠して「お前は可愛いからすぐ結婚しそうだな」と強引に言い換える。


 すると、もう何回か嫌味を言われる事を覚悟していたのだがいくら待てど嫌味は飛んで来ず代わりにステファニーの顔が真っ赤に染まって行く。


「………結婚式はいつにしようか」

「は?」

「な、ななななな、何でもないっ! ………それにしてもコンラッド、最近一気に垢抜けた、というか吹っ切れたというか、兎に角いい意味で雰囲気変わったよね」

「そうだな………まあ色々吹っ切れた事も確かではある」

「も、もしかして失恋とかじゃないわよねー……ははは、なんちゃって」

「まあ……な。 ある意味それも含まれるのかもな」


 それは恋と呼ぶには余りにも未成熟な感情であったのだが意識していないといえば嘘になる。


 そんな失恋と呼んで良いのかすら微妙なものからブラッド・デイモンの本性、そしてクロフリートとその家臣達の圧倒的な強さなどなど、最早色々ありすぎて吹っ切れたというより開き直ったとも言うべきか。


 そんな事を思い少し自虐めいた感じで思わず笑ってしまう。


 敵わねーな……男としても。


「ど、どど、どこの馬の骨にし、しつっ、しししっ、しし、失恋したのかしら? ぜ、全然、これっぽっちも、毛ほども、興味ないけど、聞いてあげる。ほら、話せば楽になるって言うじゃない? べ、別にこ、コンラッドの好みとかを知りたいとかじゃないからっ。ほんと、純粋に癒してあげたいとだな」


 コンラッドの失恋話に興味深々である事は誰が見ても、挙動不審のステファニーを見れば一目瞭然であろう。


 しかしコンラッドは唐変木に成るべくして成った男である。


 いくらステファニーが恋の駆け引き能力ゼロの癖に駆け引きしたがるある意味で残念過ぎて無意識のうちに引かれ、ある意味ではその分かりやすいモーションによって無意識のうちに相手を落としているな女であったとしてもその相手が唐変木の中の唐変木の前では無意でしかない。

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