第439話まな板の上の鯉

 そして無駄の様に見えた泥人形の生成だが、継続してボナに放つからこそ見えてくるものがある。


「土魔術段位一【土縄】」


 エルルはボナに向かわせた泥人形に魔術をかけ土で縄を作るとボナを縛ろうとする。


 しかしボナは技名を言いながらまるでスキルかのような美しい動きで回転し、全ての縄を切り消して行く。


 そしてボナが全ての縄を消す技を放った時、エルルはあらかじめ仕込んでおいた落とし穴を発動させる。


 しかしボナは気付いていたのか縄を切りながら跳躍していたらしく落とし穴には引っかからない。


 だがエルルはそれを見て確信する。


 ボナは縄は消したが落とし穴は消さなかった。


 それは魔術やスキルを消せる能力を持つのはボナでは無くボナの持つ武器の剣であり、剣が一本である限り複数同時に魔術を放てばどうしても無理があるというエルルの推理は当っていたみたいである。


「凄いでしょ?この刀」

「とんでもない能力だな、まったく」


 その事にエルルが気付いた事と同時にボナも気付いたらしく軽く武器を自慢してくる。





 それから数十分間、お互いに攻め切れず拮抗した攻防が続いていた。


 ボナの魔術とスキルの無効化という能力がボナの扱う武器の能力であると分かってからは前半の様に一方的に攻められるという事は無くなったのだがそれだけである。

 結局相手のボナの戦闘技術及び戦闘経験から来るであろう攻防に攻めあぐねているという事実は以前変わっていない。


 だがしかしいくら相手が経験豊富だろうが武術に長けようが何十何百と打ち合えば自ずと攻防のパターンや癖と言ったものが見え、ある程度相手の動きを予測出来る様になるものである。


 そしてボナのパターンや癖であるが、ボナは必ずと言って良いほど大きな隙が出来そうな技や斬撃を放った時距離こそバラツキはあるものの毎回バックステップを踏んでいる事に気が付いた。


 バックステップを踏むという事はその一瞬だけ前への動きが鈍くなるという事である。


 また、幾度となく繰り広げてきた攻防によりのボナがバックステップを踏むパターンも分かって来た。


 そこまでくれば後はまな板の上の鯉であろう。


 多少捌くのには依然気が抜けず簡単では無いのだが、捌き終えるまでの道筋はハッキリと見えている。

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