第379話魔術なのか神の奇跡なのか

 その完璧な所作のせいで先日死に掛けた者であるとは思えない程なのだが、ウィンディーネなら完全に治癒出来ていると思いつつもセバスチャンの体調を気にかける。


 するとセバスチャンはクロの肌をチリつかせる程の殺気を目に迸らせ、体調は万全であると返す為慌てて今回は安静にしろとクロは返す。


 そんな会話を繰り広げていると痺れを切らしたのか魔術かスキルで増幅したであろう声量でもって「放て!」という掛け声が響き、一斉に矢が雨の様にこちらに飛んでき始めるのが見える。


「ここは私が」


 それを見てクロは矢を防ぐ魔術を使う為に一歩踏み出そうとするとメイド長の椿がそれを遮り前に出る。


「風の魔術段位一【微風】」


 鈴が鳴るような美しい音色と共に紡がれた魔術はただ微風を吹くだけの魔術である。


 しかしその魔術を使う術者の技量によってはその限りではなく、向かって来る何百という鉄の鏃は全て微風により調整され一本もかすることなく地面に突き刺さって行く。


 その効果は絶大だったらしくスーワラ聖教国側の軍から騒めきが聞こえて来る。


 スーワラ聖教国側からすれば飛んで来る矢をなんの対策もしていないにも拘らず一本も当たらないかの様に見えた事だろう。


 味方であるはずのクロ自身でさえあまりの恐怖に無詠唱で即死回避の魔術を自分含め全員にかけた程である。


 それから数度、同じ様に矢が放たれるのだがその全てが次々と地面に刺さって行く光景を目の当たりにし、初めは偶然だと思っていたスーワラ聖教国側の軍も二度三度とそれが続く度に矢が当たらないのが偶然では無いと気付き始める。


 それが魔術なのか神の奇跡なのかは理解できないまま。


「無色の魔術段位四【位置交換】」


 そして椿による魔術によりスーワラ聖教国側の軍は混乱の極みみ達し、遂には逃げ出す者、武器を捨て神に祈り始める者まで現れ始める始末である。


 いきなりスーワラ聖教国側に今まで軍の頭がいたはずの所に敵の、最早得体の知れない片側を眼帯で隠している独眼のメイドが現れたのである。


 この中で混乱せず瞬時に攻撃転じる事が出来た者は優秀であると言えるだろう。


 しかしいくら優秀だとしても椿が選んだ十傑のメイドがその程度で蹴散らされてしまうほど無能であるはずもなく、次々と簡単に無力化されてしまう。

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