第363話泥棒猫ども

壊れたブリキのオモチャの様にクロに詰め寄るセラはカエルが潰れる様な声を出したかと思うといきなり地面にひれ伏す。


「落ち着かんかいセラ!!」

「ぐうう………この重力を上げる魔術とその声は……バハムートですか? は、早くこの重力を戻しなさい」

「無理なものは無理であろう。 今のお前を自由にしては我が主の婚約者を片っ端から亡き者にしようとする未来しかみえないからの」

「い、今何と仰いました? バハムート。 私の耳が壊れていなければ先程、この者達の事を………婚約者と言わなかったですか? …………この………泥棒猫どもがあああああああ……ぐええっ! ちょ!? バハムート! 重力を強めるのをやめなさい!」

「ならその溢れ出る殺気を抑える事だな」


 セラをいとも簡単に地面に縫い付けているのはバハムートと呼ばれている、恐らくエンシェントドラゴンであろう、見上げてしまう程の巨大な巨躯を持つ黒い黒竜のようである。


 竜族が人間の言葉を喋る事は知ってはいたが、この様に実際会話をしているところを見るのは初めてである。


 といっても人間の言葉を喋れる竜すら見た事無いのだが……。


「す、すまん。 変な邪魔が入ったが気にしないでくれ」

「わ、分かった……」


 そんな中クロ・フリートが若干顔を赤らめながらこちまで歩いて来ると今黒竜とセラとで行われているいざこざについて謝罪して来る。


 クロ・フリートからすればまさに身内の恥に近い感情であろう。


 しかしこちらは先程から規格外の事があり過ぎて今自分の現状すら忘れてしまいそうな状況に陥ってしまっている為やけに冷静に答える事が出来た。


「ところで、先程の話の続きなんだが、君は異世界から召喚された勇者で間違いないか?」

「ええ、間違いないわ。 わ……私も一つ聞きたい事があるのだけれど、質問しても良い……ですか?」

「ああ、構わない。 何だ?」

「あなたはもしかして私と同じ日本国からこの世界に勇者として召喚された国家魔術師なのではないですか?」



 思わずタメ口になりかけたが、お互いの立場を思い出し咄嗟に敬語を使う。


 そしてミズキはクロ・フリートに今思っている一番の疑問を口にする。


「うーん、そうだな………話せば長くなるのだけど、君はこの姿を見て日本人だと思うかい?」


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