第324話クロ・フリートの胸で泣いていた


「ああ、なんで俺が此処にいるのかって? サラから逃げて来たんだよ。 なんかターニャの不正が分かったとか言いながらあいつ鬼の形相でターニャと俺を連行しようとしてな……結局ターニャは捕まったんだが」


「な、なななっ、なんで…くろ…くくく…クロ・フリートが、ここにいるんだよ……っ!? てか見るな! バカ! 死ね! 私に構うな!」


 乱暴ではあるが頭を撫でられたお陰でドロドロとした感情が薄れていき、心に余裕が生まれる。


 そのお陰で今の状況を正確に捉える事ができるようになったのだが、その事が逆に私の感情を先程以上に掻き乱し取り乱してしまう。


 先程まで自分はクロ・フリートにされた事を反芻してしまい、今まで感じた事のない羞恥心が私を襲い始める。


 しかしかそれと同時に職業病か頭が混乱すればするほど思考の最深部ではヤケにクリアになり、何故これ程までに取り乱してしまうのか疑問に思ってしまうのだが答えは出ない。


「構うなってな…今のお前を見付けてしまって構わない方が無理だ。 もう後悔したくないんだよ」


 そんな私の叫びなど聞こえないと言わんばかりにクロ・フリートは御構い無しに私の頭を優しく撫で始める。


 しかしその表情はどこか悲しげで、このまま消えてしまうのではないかと不思議にも思ってしまう。


「何があったのか言いたくなければ言わなくてもいい。 でも言ったら楽になる事ならおじさんに言ってごらんなさい。 大丈夫。 ここで聞いた事は秘密にするから。 約束だ」


 何なのだ何なのだ何なのだ。


 見るからに歳下の癖に私より一回りは大人に感じてしまうクロ・フリートの雰囲気は?


 その雰囲気で優しい言葉を投げかけられ、優しく頭を撫でられたら……今の精神状態で抗えという方が無理だ。


「わ、笑わないか?」

「もちろんだとも。 だが、今フレイムが感じている物が将来お互いに今日の事が笑い話に出来るようにしたいとは思っているよ?」


 クロ・フリートは口調すら良く盗み聞く口調から優しさを含む口調に変わり、優しい笑顔を向けてくれる。


 その手は未だ私の頭を優しく撫でていて、寂しさと将来の不安で押しつぶされそうになっていた私はその優しさに溺れ、気が付いたら咳が切ったようにそれら不安をクロ・フリートにぶつけ、クロ・フリートの胸で泣いていた。


 そして私の今まで感じていたクロ・フリートに対するモヤモヤとした感情は、一気に靄は晴れ明確にそれが何なのか分かってしまう。


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