第283話銀色に光る指輪

 全く、クロは男性が思っている以上に女性は自分の体重を気にしているという事を小一時間話す必要があると思うのだけれど、それでも嬉しい気持ちが優ってしまう。


 生まれてから今までそれこそ愛の囁きを向けられた事など無いに等しい為にそれがどんな形であれ自分に向けられたものだと思うと嬉しいと思ってしまう。


 お……女誑し!! クロの女誑しなのが悪い!!


「ははっ……悪い悪い。 ターニャは軽いよ。 軽いけど……やはり護りたいと思えばこそやはり重たいとも思う」


 悪いと思ったのか謝るクロなのだが、その後続く言葉とともに一瞬だけクロの顔が陰り、一層強く抱き抱えてくるとクロの言う重さという物が何なのかが伝わって来る。


 その後少しの間だけクロはターニャを抱きしめた後ソファーまで優しく運んで行くとそのままターニャの上に覆いかぶさるのであった。


 その後は自分が想像している以上の快感や痛み、そして幸福感がターニャを包んだ後、疲れからか泥の様に眠りにつくターニャの左手薬指には銀色に光る指輪がはめられていた。



◇◆◆◇



 アーシェにクロを襲わせた後、クロは憑き物が取れた様な、それでいて大事な何かを無くしたような表情をしていた。


 その事に罪悪感が無いといえば嘘になるのだが、その後の何か吹っ切れた様なクロを見て自分がやった事に対して後悔はしていない。


 まったく、正面切ってクロの内側に踏み込めない自分に嫌気がさす。


 クロと出会ってから今まで嫌という程自分が事恋愛に関して臆病なのだと思い知らされてきた。


 今まで死ぬかと思った事は何度もあったし危険な依頼も何度か経験して来たのだがそれらに飛び込む、もしくは切り抜ける為の一歩踏み出す恐怖よりもクロに嫌われたらという恐怖が上回ってしまっているのだから不思議でならない。


「二時の方向に一匹、九時の方向に二匹」


 本来はそんな呑気な事を考えれる余裕など無い状況である筈なのだが、私が敵の方向をクロに伝えると、次の瞬間には雷鳴が二発聞こえ、敵を穿つ。


 今現在私達はギルドの依頼から『亜竜討伐依頼』を選び、その依頼の最中である。

 実際キンバリーやターニャの様に普通の女性の様なデートをしたいという欲求であり昔からの夢でもあるデートコースも捨てがたいのだが、やはり私には好きな異性と高難易度クエスト依頼をツーマンセルで達成させるという事の方が冒険者を始めた頃からの夢であったのだ。


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