第229話一緒に食事だなんてどうかしてますわよ

「あいよ。まったく、酒を飲まない大魔王の爪の垢を煎じてウチの呑んだくれに飲ましてやりたいくらいだよ」



 そう言い笑う奥さんの視線の先にはエールが入っているだろうジョッキを片手に料理を作る亭主の姿が見え「ご苦労様です」と返す。


 そんなやり取りをしている場所は、その飲屋街の中にある店の一つオークの匙という店にクロは来ていた。


 この店には良く1人になりたい時などに良く来る店なのだがこの店の奥さんからは「大魔王さん」と一ヶ月前くらいから呼ばれる様になった。


 それは何もここの奥さんだけでは無く街の人からも大魔王とからかわれたりしだしたのだが、どうやら皆本気で大魔王と思っている訳では無い様である。


 その要因の一つにクロの種族が人間と知れ渡って居るからだろう。


 しかし、それは現在の形態が人間であって何が原因で本来の種族がバレるか分からないため慣れ親しんだこの街も大会が終われば去ろうと思うのも仕方の無い事だろう。


「貴方は何を考えてらっしゃるのですの?」

「何って、せっかく同じ店に来たんだ。可愛い弟子の知り合いの食事を奢るぐらいはするさ」


 そんな密かな決心をしたクロの付く2人用のテーブルの向こうには全身黒ずくめの外套を纏い、フードで顔を覆っている女性が座っており、不信感を隠さずそれを言葉にする。


「ここで恩を売ろうなんて考えは捨てることですわね。もし貴方の弟子と私達が当たっても全力で捻り潰してさしあげますわ」

「怖い怖い。でも手を抜かれるよりよっぽど良いし好感が持てるよ」

「まったく……そもそも貴方と私の師匠とでは考え方や価値観が明かに違いますのにその弟子と一緒に食事だなんてどうかしてますわよ」

「それはお前もだろ?」


 とは思うのものの言わないでおく。


 そんな彼女は未だ愚痴をボソボソと吐きながら被っているフードを脱ぎ黄金色に輝く金髪が露わになる。


「美人な顔に良く似合う綺麗な髪だな……」


 そんな彼女をどこか西洋のスター俳優でも見るような感覚で感想を述べる。


 彼女の顔は西洋風ではあるものの向こうの平均的な価値観から来る美人と言うよりもどちらかというと日本人から見て美人と言える顔立ちをしており、セクシーというよりも可愛いという言葉の方が似合うだろう。

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