第82話我が父上であるぞ?

 現に魔族は攻めて来て関係ない国民が犠牲になろうとしているではないか。


 こんな理不尽な殺され方は――



「認めていいわけないだろうっ! 【デモンズゲート】」



 そう私が唱えると一度手合わせした時に魔王アーシェから教えて貰った魔術が発動し、目の前に漆黒の門が現れ、鈍い金属音と共に開き始める。


 その瞬間周りから、私を魔族と勘違いした者たちがざわめき立つが、魔術を行使したのが私だと気づくと安堵のため息と共に収まり出すが、先ほどとは逆の種類のざわめきが辺りを包む。


「スフィア・エドワーズ姫!?」

「黙れ!私は今この時より今の地位を捨てる!姫と呼ぶのは許さん!そして私は今からこの門を使いノクタスに行く! 付いて来たいものは勝手に来い! 以上!」


 そう言い捨て【デモンズ・ゲート】で出現した門へと目線を向けると、その先に見える景色はノクタスのギルド支部と、ビックリした顔のギルド長であった。



 そして私は疾風の如く駆け出し戦闘音が聞こえる方角へと走ると、思い知らされる羽目になった。


 私は自分の力に奢っていたと気付かされた。


 今までの周りの評価により慢心していたのだと思い知らされる。 


 今目の前で繰り広げられる戦闘、それは私の思い上がっていた感情を粉々に打ち砕き、真っ新にする。


 そして戦っている二人のうち一人が魔王アーシェだと気づくと恐怖で立てなくなる。我々人族はあれに牙を向けたのだと。


 その魔王アーシェに真っ向から立ち向かっている相手も、初見では人族に見えるが、よく見れば魔族である事が伺える。


「もし人族にあれほどの力があったら…」


 もしかしたら彼女達に立ち向かえるかも知れない。


「彼女のように他人のために今まで力を隠し、他人のために力を使える事はできないだろう…」


 しかし私たち人族は自分のためにその力を振るうであろう事が容易に想像出来た。


 現に、現魔王の経済力が低下したという情報を手にした瞬間魔族国を攻めた結果がこれなのである。


「……姫様」


 目の前の光景に打ちひしがれていると、私を追って来たのであろう我が家臣の一人が心配そうに声をかけ、私の肩に手を添える。


「姫と呼ぶなと言ったであろう?見てみろ。あの獅子を怒らせたのは我が父上であるぞ?」

「……」


 そう言うと家臣は答えず押し黙る。肯定すれば反逆罪に当たるからであろう。否定しても罪には問われない。

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