第73話詐欺行為

 赤く染まったアーシェの手首がクロの唇に触れる寸前、クロが左手薬指にしている指輪に無数のヒビがはいり、音を立てて砕け散る。


 次の瞬間ゼロだったクロの体力ゲージが一だけ回復した事により目覚めたクロが眼前のアーシェを蹴飛ばし一気にアーシェから距離を取る。


 そこからクロは”無詠唱”で自身に水の段位十【龍神の加護】を使うとアーシェに向けて土魔術段位五【束縛】を無詠唱で放ち、さらに光の魔術段位八【聖なる光】を間髪いれずアーシェへ撃ち放つとあたりが視界を遮る程の光に包まれる。


この流れをクロはタイムログを殆ど感じさせない程の早業で魔術を行使して行く。


 その間もクロは魔術を発動し続け、アーシェの周りに水の魔術段位九カウンタースペル【実らない失敗】を光魔術段位五【時の凍結】で合わせる事により本来数秒で消える【実らない失敗】を複数設置、さらに風魔術段位六エンチャント(フィールド)型魔術【風の障壁】により魔術段位五以下の魔術をロックし、光と闇の混合色魔術段位十エンチャント(フィールド)【栄華の崩落】をさらに重ねがけする事により高段位魔術でもカウンタースペルで打ち消せるようにする。


 最後にクロは無色魔術段位九【冤罪】を無詠唱でアーシェに放つ。


「ロック完了……なんとか上手くいって良かった」


 そう言うとクロはアーシェが展開している結界を【開呪】を使い無効化するとその周りにいる家臣達にスキル【キュア】を使って怪我をしているだろう箇所を重点的に回復させる。


 それが終わるとクロはアーシェがいる場所まで行き、クロの魔術【束縛】と【冤罪】により身動きが取れなくなり【実らない失敗】【風の障壁】【栄華の崩落】により魔術で抵抗する術まで奪われたアーシェへの首筋へと自らの愛刀『椿』を押し当てる。


「試合では負けたけど死合では俺の勝ちかな?」

「………負けました」


 しかしアーシェの目が納得いかないと反抗的な視線を向けてくるので刀の刃をアーシェの首筋に押し当てると渋々負けを認め、うなだれる。


「ああ、それ俺自身のオートスキル【最後の灯火】の効果で俺の体力ゲージが一割以下になると発動するオートスキルで、すべての魔術を無詠唱で詠唱できるようになり、魔術の相性によっては並行詠唱も使えるようになる」


「どんな反則をしたのよ?お兄ちゃん…。高段位魔術を無詠唱だけでなく並行で発動させるなんて…あんなの防ぎようがないじゃない!」


 それでも納得いかないのか今起こった光景が夢か、詐欺行為なんじゃと思ってしまうアーシェ。



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