第26話規則正しい呼吸
「なんで精神安定剤を持ってるなら最初に出さないのよ! ミイアが発情しているのをいいことにあんな、あんな…羨ましい…じゃなくて!」
そしてメアは十分間この調子でクロを責め立てている。つい出来心なんだとは言えない空気である。異世界なんだ。猫耳娘がいたら撫でくりまわし耳を触りモフりたいと思うのは一地球人として当然の感情で男性代表としてやらなければならない使命なのだ。俺は悪くない。
「で、何かミイアに言う事はないのか?」
無いとは言わせないとメアが圧力をかけて来る。俺よりも一回りも下のメアなのだが、我が妻を彷彿とさせるだけの異性としての圧倒的なオーラを放っている。将来有望である。
「ミイアさん、今回の事は本当に申し訳ない!」
「いえ、私もご迷惑をかけてすみません」
「婚約しろ」
「これ、まだ一週間分ありますので良ければ全部もらって下さい」
「あ、ありがとうございます」
「婚約しろ」
「いえいえ。ちゃんと効果があって良かったです」
「……はい」
「婚約しろ」
もうね、ホラーですよメアさん。ミイアも何故か期待した眼差しで俺を見つめてくるし…。
「私のミイアにどこか不満があるのか!?」
お前のなのかよ。
別に不満なんてあるはず無いのだが…。
「いや、ミイア本人の気持ちがどうなのかっていうのもあるし、何よりもミイアのご両親に挨拶もなく決めていいものなのか?」
「わ、私を女にしたのはクロさんです」
潤んだ瞳でそんなことを言うのはやめようね。別の意味にしか聞こえないから。
そういう趣味は無いので未成年に手を出したみたいで心が痛む。
「それから私の両親は流行病で死にました。ですので両親の了承もいりません」
なんだか悪い事を聞いたみたいになったので謝罪すると「大丈夫です。昔のことですから」とかえされた。
ミイアの中ではもう過去のこととして気持ちの整理はできているのだろう。
それから長い沈黙が訪れ、耐え兼ねた俺はミイアとも婚約することになった。このことを元の世界にいるだろう妻が知ったら間違いなく命はないだろう。そんな事を思うと罪悪感と共に懐かしさがあふれてくる。
その光景をメアは一つ肩の荷が下りたような表情で眺めていた。
◆
ミイアと婚約した翌日、クロは窓から射す太陽の光で目を覚ます。昨日のような朝特有の肌寒さはなく代わりに人肌の心地よい暖かさがクロを包んでいた。
その原因はすぐにわかった。クロの右隣りで「すー…すー…」と規則正しい呼吸を繰り返すミイアがいたのだ。
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