第18話あ、はい


『抜刀・居合切り』


 だからこそ、誠意を込め刀を抜く。


 ゲームでは気持ちを込めてもスキルの威力は変わらない、だが…………ここでは何かが変わる気がした。


 勝負は一瞬のうちに決し、勝敗は誰の目で見ても明らかだった。


 クロの持つ木刀、その真ん中より少し上から先が無く、その先はクロの足元にある。


 クロのスキルは敗れ、武器は破壊されていた。


「参った!」

「…………この試合、勝者はドラニコ!」


 審判が試合の勝者を告げる。負けてしまったが意外と心は満たされていた。彼は確かにランクBの実力者であった。


 ドラニコが近付いて来るとクロにしか聞こえない声で話し出す。


「……メアの事なんだが」


 ―――先ほどの闘いですっかり忘れていたのだが、この勝敗にメアを賭けていたのを思いだし全身から汗が一気に吹き出してくる。 いや、なに簡単に負け宣言しちゃってんだよ! と思うもすでにあとの祭りである。

 

「その、なんだ? …………これからもメアの事を頼む。」

「…は?」


 そういうとドラニコはクロに頭を下げる。


「お前なら安心だ。 これで俺も決心がついた。感謝するぜ」


 そう言うとギルドの奥に消えて行ったドラニコを無言で見送ると折れた木刀でメの形をなぞり、刀に付いた血糊を振り払うように振ると鞘へ戻す動作で腰の左側へと持っていきストレージにしまう。 この動作はギルティブラッドの侍職が戦闘終了の時に行うモーションである。


 別にゲームではないのでこのモーションをしなくてもいいのだが今の俺はギルティブラッドのクロ・フリートとしてこの世界にいる。


 元の世界の自分はもういない。その意味と決意を込めクロは木刀をストレージにしまう。


 思うに彼はメアの事が好きだったのだろう。 そして今はドラニコの後ろを追いかけるあの緑の髪を束ねたポニーテールの女性の事が…………。


「なんか、良いように使われ……た……ひっ!?」

「クロ…? わかるよね?」

「あ、はい」


 そして振り向くとドラニコより強そうなメアが後ろに立っていた。


 そしてメアの折檻が執行される。何しろこの決闘では本人の意思に関係なくメアを賭けの対象にしていたのだ。怒らないという選択肢はメアには無い。


「本当に、もう私を賭けの対象にするのはやめろよな!」

「はい」

「もし私があのまま本当にドラニコの物になったらどうするつもりだったのだ!?」

「はい」

「はいしか言えないのか?」

「はい」

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