第71話 帰ってきたメロス……メロン?(1)

「ちょっと待ちやぁぁぁ!」

 二人とは別の大きな女の声がした。

 声を発した女が、舞台袖から姿を見せる。

 女だよな……

 スカートをはいた、ピンクの塊。

 頭にはちょこんととんがり帽子のようにまとめた金髪が少々。

 その先端は重さのせいか垂れている。

 その様子はまるでとぐろを巻いた金色のう●こ。

 そのう●こを載せている顔は、まん丸のピンクの肉まん

 ふっくらとした頬に押しつぶされた目は横一文字。

 鼻と口など肉の中に埋もれていた。

 まぁ、ルージュの口紅おかげで、おおよその場所の見当がついた。

 どれもこれも中心に寄りすぎているのが面白い。

 そしてこれよりも滑稽なのが、歩くたびに脂肪がポヨンポヨンと揺れるその光景。

 どの段が乳のふくらみで、どの段が腹のふくらみなのか全く持って分からない。

 だってそのふくらみが、派手な服の上からでも最低5段は確認できるのだ。

 そう、この女こそ、マーカスたんの母君であってマッケンテンナ家の女当主、ドグス様である! ひかえろう!


 ズカズカと二人の間に割ってはいるドグスは、いやらしい笑みを浮かべていた。

「姫様! そんなおもろいことをウチ抜きに進めてもらっては困りますわ!」

 そんなドグスの後ろには、ロープで引かれるボヤヤンとムツキ。

 二人ともスッポンポンである。

 ドグスは会場に向かって叫んだ。

「この者たちはヒドラ討伐に失敗した上に、うちの英雄マーカスたんの足を引っ張った極悪人!」

 会場内がざわついた。

「さらに、英雄マーカスたんから超高級毒消しを奪った盗人野郎なんやで」

 観衆は互いに顔を見合わせた。

 そんな話は初耳だ。

 ヒドラの毒から生きて帰ったことは知っていたが、それはマーカスの毒消しを奪ったからなのか。

「おいで、マーカスたん!」

 ドグスは観客席の最前列で親衛隊を指揮するマーカスたんに声をかけた。

 マーカスたんはしぶしぶステージに昇ると、ドグスの横に立った。

「見てみい! そのせいでマーカスたんは、こんな姿になったんや! どなに思う?」

 観客席からブーイングが巻き起こる。

 それを確認したドグス。

 頃合いか……

「こんな奴ら、生かしておいてもろくなことにならへんと思わんか?」

 そうだ! そうだ! と会場から同意の声が上がりだす。

「こんな奴らには死刑がええと思わんか?」

 ドグスの誘導に巻き込まれるかのように、観客席からの声はさらに大きくなっていく。

「そうか! そうか! 皆分かった!」

 ドグスは大きく両の手を掲げた。

「ならよって、マッケンテンナ家の名のもとに、この者たちの処刑を行うたるわ!」

 会場から大きな声援が上がった。

 一方、そのころ、ヒイロは弁当を食べ終わり、食後のプリンまで喰らい尽くしていたところであった。

 ゲプっ! もう……食えねえ……


 ステージの上に二つの断頭台が運び込まれた。

 その断頭台にボヤヤンとムツキの首が固定される。

 その上には、大きな刃が鈍い光を散らしていた。

 ドグスが、その様子を見ながら楽し気に説明を始めた。

「さぁ、アリエーヌ姫様とミーナのアイドル勝負。負けた方の断頭台に固定した首が飛ぶよ! どうだい面白いだろ!」


 ボヤヤンの前に立つアリエーヌ。

 だが、それを聞くアリエーヌの眉間にしわが寄っていた。

 ――何が面白いのじゃ……

 ヒドラ討伐を失敗したのは結果論でしかない。

 まして、マーカスを守れなかったのは、この者たちだけの責任ではない。

 魔王討伐によってボロボロとなったマーカスの事に気づかずに送りだした自分のせいでもある。

 国王もまた、そんなマーカスの異変に気付かずに、無理難題を押し付けたのだ。

 そして、国民たちもマーカスをはやし立て引くに引けない状況を作り出したではないか。

 もはや、この国全体がマーカスに対して責任をおわなないといけないはず。

 なのに、この者たちだけが責任を押し付けられるのは正しいのか?

 それは、何かおかしい。

 まして、人の命をマッケンテンナ家に裁く権利などないはずなのだ。

 王国の裁判所を無視してマッケンテンナ家が死刑を執行すれば、それは私刑ただの殺人なのだ。

 いかに、観衆の同意を取り付けようとも、それは決して正当化されることはない。


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