第47話 そこんとこ!夜露死苦!

 ヒイロは、ぽつんと倉庫に立っていた。

 スッポンポンの裸で立っていた。

 既にオバラはいない。

 オバラは、強がった笑顔と共に走り去っていた。


 そんなヒイロの足先を何かがはたく。

 邪険にするかのように、子ウサギが習字の筆で掃除をしていた。

 しかも、二足歩行で……

 ふと、見渡すと、子犬や子猫たちも、何やらゴソゴソと二足歩行で掃除をしていた。

 だが、どことなくよそよそしい。

 なにか女の嫉妬のような、どんよりとした空気が倉庫の中に漂っていた。


 ヒイロは、そそくさとパンツを上げる。

 前からお尻までざっくりと破けてはいるが、ないよりかはマシだろう。

 一方、ズボンは、何とか使えそうである。

 やはり布地が作業着並みのごついものだったのがよかったのか。

 オバラは、破ることができずにベルトを外して、下げてくれていた。

 もしズボンがビリビリになっていたら、着るものがないすっぽんぽん。

 もう露出狂確定である。

 ヒイロはズボンを上げベルトを締める。

 だが、上半身は裸……もう、着る物がない。

 まあ、仕方ない……


 ヒイロは、それとなく二足歩行をしているペンギンに声をかけた。

 あっ……ペンギンは、もともと二足歩行か。

「お手伝いいたしましょうか?」

 ペンギンはフンとそっぽを向いて倉庫の壁についているボルトを、これでもかとバンバンどつきだした。

 きっとコイツはフンボルトペンギンに違いない!


 今度は子犬と子猫に声をかける。

「俺も掃除しようかな……」

 まるで汚いものから避けるかのように、ささっと身をよじり離れていくではないか。

 あれ、俺、なんか変な匂いするかな……

 ヒイロは二の腕に鼻を近づけてクンクンと匂ってみる。

 何だか、先ほどまでひっついていたオバラの臭いがしたような気がした。

 だが、別に変な匂いではなかった。どちらかと言うと、いい匂いというか女の臭い。

 その匂いのせいか、パンツの隙間から何かがぴょここんと突き出したような気がした。


 ヒイロは、気を取り直して子ウサギに声をかけた。

「頑張って……」

 だが、ヒイロの言葉は、そこで固まった。

 なぜなら、ヒイロの目の前で子ウサギが習字の太筆を地面に突き立てて仁王立ちでこちらを睨んでいるのだ。

 その眼光の鋭いこと。

 赤い目玉のせいで、その怖さは2割増し!

 まるでウサギの悪魔のようであった。

 だが、恐れるべきは、その足元なのだ。

 筆によって掃き清められた床のホコリが、なにやら線をなしている様子。

 しかも、それは字として読めるのである。

 し ね

 まさか、偶然だよね……

 この子ウサギが書いたとは思えないのですが……

 でも、先ほどから、子ウサギが、イライラと足をトントンさせながら、筆先で、その字面をさしているのは、どういう事かな……


 ヒイロは助けを求めるかのようにレッドスライムを探した。

 倉庫の隅に隠れるようにいたスライム。

「こんなところにいたのか……」

 声をかけると、レッドスライムが、駆け寄ってきた。

 あぁ、なんてウイ奴なんだろう!

 ちょっと、心が打ちのめされていたヒイロにとって、まさにその存在は、癒しそのものだった。

 あぁ、レッドスライム!

 お前だけだよ!

 レッドスライムもまた、懸命に駆けてくる

 ヒイロォォぉぉぉ!


 のバカ!


 次に瞬間、俺のアゴにレッドスライムの塊がヒットした。

 俺の視界が倉庫の天井を見上げるとともに、暗転した。

 どうやら俺は……気を失ったようである。


 俺は、また夢を見た。

 登場人物は、先ほどの夢に出てきた3人の女子中学生と一人の女子高生、そして超偉そうな一人の幼女である。

 先ほどとは異なり、今度の女の子たちは白色の特攻服を身にまとっていた。

 そして、ここはベッドとは違い、なぜか倉庫。

 いつの間にシャッターが閉められたのだろうか、倉庫には天窓から差し込む光のみが差し込んでいた。

 そう、今の倉庫は密室なのだ。

 そんな暗い倉庫の中に5人の女の子の声がこだまする。

「気合い入れて暴走するんでそこんところ夜露死苦よろしく!」

夜露死苦よろしく!」

 もう何か殺人事件でも起こりそうな雰囲気。

 今度の夢は、どうやらレディースの集会のようである。

 幼女は、なにか叫んでいた。

「もう! アタイは頭に来た! ヤキいれたる! 最後の一滴までギッたる! 二度と起き上がれないように素手喧嘩ステゴロでシバかせていただきます!」

「全ゴロし! 全ゴロし! 全ゴロし!」

 周りの女の子たちも同調する。

 だが、俺はまたもや体が金縛りにあったかのように動かない。

 幼女は叫ぶ

「アタイたちは! イイスケになるぞ!」

「おーーーーー!」

 その掛け声とともに、俺に向けらるその視線。

 まるで猫のように吊り上がって光っている。

 しかも、大きく開いた口からは、大きな歯が見え、よだれまで垂れていた。

 まさに、ゾンビ映画でも見ているかのような恐怖。

 その口が、一斉に俺の下半身に襲い掛かった。

 食われるっす!

 ひいいいいいいいい!

 俺は悲鳴を上げる。

 下半身はまたもやぬるっとした感触に包まれたような気がしたと思ったら、俺は意識を失っていた。









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