第46話 ごめんなさい(2)
ため息をつくヒイロ。
大方、オバラたちが人質に取られていて、テコイがヒイロを連れてこないと、首が切られるとかいったオチだろう。
マッケンテンナ家の噂はヒイロの耳にも届いている。
だからこそ、ヒイロも、マーカスとなり替わった時には、その責任を全うし、その後は、姿すらさらさないようにしてきたのだ。
もし、そうでもしないと、自分の身どころか、母スギコの身にも危険が及ぶ可能性があるのだ。
ヒイロは笑いながら言う。
「俺がマッケンテンナ家に行かないと、お前たちが死ぬんだろ?」
オバラは、涙をたたえた目で必死に笑顔を作ろうと引きつらせながら、首をプルプルと振った。
そして、念仏のようにつぶやくのだ。
「そんなことはないよ……そんなことはないよ……そんなことはないよ……」
その様子は、死の恐怖と、それをヒイロに伝えてしまった後悔、ただ、もしかしたらという希望もあったのかもしれない。
だが、オバラは思い切ったようにつづけた。
「だから、ヒイロは、この町から逃げな! どっか遠くの街に逃げておくれよ!」
頭をかくヒイロ。
逃げろと言われても、昨日、開いたばかりのペットショップを半日でやめるのはどうだろうか。
というか、ヒドラ討伐失敗の件については、俺は関係ない。
だが、あのテコイが自分の責任をヒイロに擦り付けたことは容易に想像できる。
しかし、そもそもの事の発端は、ヒイロとマーカスが入れ替わっていたことに起因する。
ならば、その点については自分に責任があるのではないだろうか。
ということは、今回のこの騒動についても、少なからず自分にも責任があるということなのだ。
「さようなら! ヒイロ!」
オバラは、そう言い放つと、ヒイロに抱き着き、無理やり口づけをした。
それは、ヒイロのファーストキス。
ムシャブリつくようなオバラの舌。
だが、そのキスの味は、オバラの目から零れ落ちる涙によって少々しょっぱかった。
いつベッドから起きてきたのだろうか。
不機嫌そうなレッドスライムが、ヒイロの前に出てくるやいなや赤い光を放った。
みるみると液状化していくレッドスライム。
ヒイロがキスを迫るオバラを押しのけ、すかさず回復魔法をかけた。
徐々に形を戻していくレッドスライム。
オバラは、再びヒイロに抱き着こうと、体を動かす。
そんな時、身にまとっていたローブがはらりと落ちた。
そこには、朝日に照らし出される、オバラの裸体。
朝日を背負うオバラの主線が、汗によってキラキラと宝石のように輝いている。
だが、驚くのはその美しさではない。
オバラの焼けただれていた左半身の肌が、元の通り美しい肌に戻っていたのだ。
それを見るオバラは、震えながら泣き叫んだ。
「やっぱり、今までアタイらを守ってくれてたのはヒイロだったんだね」
レッドスライムに回復魔法をかけ終わったヒイロは、レッドスライムを抱き上げる。
「俺じゃなくてこのレッドスライムだけどな。俺は、もう、初級の回復魔法ぐらいしか使えないダメダメ魔獣使いだけどな」
その言葉を言い終わるか言い終わらないかのうちに、オバラがヒイロに飛びつき押し倒す。
その反動で、レッドスライムが床の上をコロコロと転がっていった。
オバラは、ヒイロの服をむしり取る。
最後のヒイロの一張羅の服である。
それが、いま、無残にも引きちぎられていく。
「アンタが欲しい! 今すぐアンタが欲しい!」
そんなオバラをペンギン、子犬、子猫、子ウサギが、懸命に引き離そうと引っ張った。
「邪魔しないでよ!」
オバラは子犬たちを振り払う。
コロコロと転がりしりもちをつく子犬。
その様子をみたヒイロが、オバラの肩をそっと押し離す。
「そいつら俺の家族なんだ……」
ヒイロの寂しそうな眼を見るオバラは、すぐさま体を離した。
「ごめんよ……ごめんよ……ごめんよ……何も知らなくて……やっぱり、ダメだな……アタイは……」
オバラは、そういい終わると、床の上に落ちていたぼろ布を拾い、身に巻き付けた。
「じゃぁ……アタイは戻るよ」
「戻るって、どこに戻るんだ?」
「アタイだって、やるときはやる女だよ! ボヤヤンとの最後の約束ぐらいは守らないといけないからね」
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