第30話 なんでパンツを履いてない?(3)

 俺は咄嗟に、ドアを開け外に飛び出すと、ペンギンのあとを追った。

 まだ、ペンギンの姿は見える。

 前回は背の高い草に邪魔されペンギンの姿を見失ったが、今回は倉庫街。

 石畳の道の上をペンギンがトコトコと走っているのがよく見える。

 苦い経験が俺の脳裏によぎる。

 あの嫌な思い出……

 二度と繰り返したくない思いで……

 アリエーヌのタオルに包まれていた子犬の冷たさが、昨日のことのように思い出される。

 あの時、俺がもっと早く気付いていれば……もしかしたら、あの子犬は死なずに済んだかもしれない。

 だが、そう思っても時間は戻らない。

 しかし、今の状況、あの時と同じではないか……

 今なら、追い付ける!

 俺は、懸命にペンギンの後を追いかけた。


 沈みかけた太陽の赤き光。

 川沿いの土手が赤く染まり、草木の影を長く伸ばす。

 そんな土手の上を、ペンギンと俺の影がトコトコと走っていた。

 一体どこまで行くのだろう?

 そう思った矢先、ペンギンはまるですべり台を滑り降りるかのように土手から川の縁と降りていった。

 そして、川の縁をまたトコトコ歩くと古い小さな橋の下へと潜り込んだ。

 また、橋か!

 俺のまぶたに死んだ子犬の顔が浮かぶ……

 眠るような優しい顔……

 だが、二度と目を覚ますことがない瞳。

 もう嫌な予感しかしない……

 俺も、急いで、その橋の下へと体をねじこんだ。

 そこは、橋げたが低く中腰でも頭を打ちそうな空間。

 そのせいか、土ぼこりとホコリの匂いがこもっていた。

 横の川はどぶ川か?

 おそらく未処理の下水が流れ込み、掃き溜めのような匂いを漂わせている。

 おげぇぇぇ!

 ペンギンは吐いた。

 ぼてぼてと落ちていく魚。

 まぁ、そうだわな。

 ペンギンには手がないから、袋を持てんわな。

 だから、途中、魚を腹の中に入れて運んでいたのだ。

 土の上に5匹の高級魚が転がっていた。

 すでに身はボロボロで高級魚どころか、まるでゾンビ魚ですけどね……

 それに応じるかのように橋脚の影から三個の黒いものが動いた。

 それはしばらくこちらの様子を伺うと、ペンギンの姿を見て安心したのかかけてくる。

 そして、勢いよく魚に貪りつく。

 それは、子犬と子猫。

 うまそうに魚を食っている。

 もう一匹は、困った様子で、その様子を眺めていた。

 ペンギンが、くちばしで魚を押し出す。

 だが、その子は首を振った。

 だって、それはムリだよ……その子は子ウサギだから……ベジタリアン。

 俺も笑いながら首を振った。

 仕方ないな……

 俺は背負っているリュックをおろすとおもむろに手を突っ込んだ。

 そして、ゴソゴソと何かを取り出した。

 こういう時に役立つ冒険道具。

「大人のおもちゃのタダのキュウリ!」

 俺はだみ声で叫んだ。

 橋の下の空間に反響し、まるでエコーのように響いた。

 きゅうりを子ウサギの前に差し出す。

 よほどお腹がすいていたのだろう、嬉しそうにきゅうりをかじりだした。

 何か、心に罪悪感めいたものが多少引っかかるような気もしないでもないが、相手は子ウサギだ。

 ウサギにキュウリを食べさせても問題ないはずなのだ。


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