新しい家族

まずは私から新しい名前を言おうかなと、シリンは思ったが、シリンが口を開ける前に、チアリとラークが手を上げる。


「決めた。じゃあ、私はサンって名乗る。」

「俺は、レナード。」

すでに決めていた2人に目をパチクリとする。

少し照れたようにチアリ…もとい、サンが説明する。

「昔、生まれ変わったらどんな名前にする?って話してた時の名前なの」

「まさかこの名前を本当に使う日が来るなんてなぁ」


その奥でレオが窓に指で何か、書きながらメルと話し込んでいた。

「それなんて読むの?」

「こっちは、ステラ、星って意味。これはジェマ、宝石っていみだよ。」

「メル、じゃまがいいー」

「ジェマね」「じぇま」

どうやらレオがアイデアを出してくれたようだ。

「レオのなまえは?」ジェマの問いかけに、レオも特に迷った様子はなく口を開いた。

「僕はセル、よく読んでた本の作者なんだ。」


思ったよりもすんなりと決まってシリンは少し肩透かしを食らった気分になった。

しかし、どの名前もすごくいい。


「シリンの名前は?」

ハーブティーのおかわりを入れに、かまどに向かったところ、チアリに聞かれた。

シリンはすぐには答えず、親を入れたポットと近くにかかっていたハサミを持ってテーブルに戻る。


「私は、これからはシンと名乗ろうと思います。」

「・・・あんま変わんないね」

レナードが思ったままのことを呟く。


シリンは「そうなんだけどね…」と言いながら、肩より少し長いくらいの髪をつかみ、ハサミでどこを切るか考える。

「うん、私は魔女っていわれていたから、名前より性別かなって思って。男の子としてしばらくは生きてみようと思う」

場所を定めた後は、ジョキジョキと伸びていた髪を切る。


貧乏生活な割に艶やかだった髪は数少ない自慢だった。

りんごと引き換えにした後も、また伸ばそうかと思っていたが、髪なんかは、いつか、落ち着いたその後にまた伸ばせばいい。

残った髪を手櫛でばさばさと乱暴にすいて、切った髪を落とす。耳くらいまで短くなっただろうか、切ってしまえば案外スッキリする。

成人した男性にしては少し貧弱でも、貧乏農村では珍しくはないし、何歳かサバを読んだり誤魔化せば男の子として通るだろう。

「どうかな?」

「シリ・・シンかっこいい!似合う!

キラキラとした目を向けるサンにありがとうと微笑む。


そして、最後にひとつ、みんなが決めていなかった名前が残っている。


「姓はどうしよう?」とシンが皆に問いかける。


この国では、貧しいものや、親のいない子は苗字がない者も多くいたので珍しくはなく、決めなくても良いのだ。


ただ、せっかく新しい自分の人生を歩むのだから、名前と同じように、姓も好きになれる言葉があればつけたらいいとシンは考えた。


「自分の村の名前をつける人もいるけど…」

サンの言葉にレナードが苦い顔で続ける。

「でも逃げてきたしなぁ…」

シリンも、あの村の名前をつけるなら、姓はなくてもいいかと思った。


すると奥で黙っていたセルがそろっと口を開いた。

「じゃあ、僕はシルビスがいい。」

「どんないみー?」

「『シルビスの魔法使いとかわいいドラゴン』?」サンがきくとセルがそうそうと頷く。

どうやら、昔にサンとレナードがセルに読み聞かせしていた絵本の森の名前らしい。


「いいね!あの話俺もすきだ!」

「分かる!私もそんないい名前つけたいなぁ」

「メルもしるびすがいいーー」

「ジェマね。…じゃあ、皆んなシルビスにする?」


セルの提案にジェマとレナードが喜ぶが、サンは「嬉しいけど、みんな一緒は変じゃない?」と苦笑いをしている。


まあ、歳もバラバラな5人全員が同じ名前をしているのは不自然かもしれないが、

「いいんじゃないかな。そんなにに使うものじゃないし、4人は血は繋がってなくても、もう家族でしょ?」

こういうのは気持ちの問題だと、シンが後押しすると、セルが首を振る。

「シンも家族だよ、僕はみんなと同じ名前がいいな」


シンは一瞬目を開いた後、にっこりと破顔する。

「そっかぁ、ありがとう」


一緒に逃げてきたのが、この子達で本当に良かった。

「私もこの名前大切にするね」


シンは救われてばかりの新しい家族を守り抜きたい、改めてそう思った。

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