"最後の最後、人間が願うそのこと"・1-2

「私は生まれたそのとき、死体が天才に変わる奇跡を望まれていた。そして……」


 ――愛されなかったこと。愛される程の実力がなかったこと。


 頑張ったこと。誰も自分というものに一つの存在も見出さなかった虚無が辛かったから。なかなか上手くいかない、でも前向きだった。


 妹ができたこと。

 妹の存在がどれだけ私にとっての幸いであったか。


「虚無の中の光は温かかった。私は、けれど、光を求めることでその虚無を妹へ負わせるようなことがあるのではないかと、そうして光が消えてしまうようなことを危惧して、ますます頑張った。しかし――」


 ――上手くいかなかったこと。

 何もかもが。


 それでも前向きであったが……段々と、何かがおかしいと気付き始めたこと。それで何かが変わるわけでもなかったけれど……。


「万事その調子で、たった一人、黒の染みに呑まれ、途中記憶さえも曖昧であった期間があった。あの頃のことは本当によく覚えていない。あのとき付けていた手記が唯一、異常が形として確認できる証拠で――それ以外は全てが曖昧だった。――――そして、どれくらいの時間が経ったのか。果たして、その闇は晴れた――」


 ――妹と仲良くなったこと。


 妹が隣に立ってくれたこと。


 全てが晴れたこと。景色が鮮やかに、瞳に映ったあの日。


「今日の薄雲たなびく晴れ空の模様が晴れ晴れしく蒼く映ったのは、あの日のことからだった――」


 妹と仲良くなった。それから――また頑張り始めたこと。


 頑張ったこと。


 上手くいかなかったこと。


 頑張ったこと。


 一生懸命の毎日。


 その先で、師であるシシリアに出会ったこと。


 武という術を教えてもらったこと。薄々自覚していた自分の才と向かい合った、数奇な出会い、幸いの機会。そして――。


 シシリアと別れてから、日々が過ぎて。


 事件が起きたこと。


 ――――ワタシが目を覚ました日。


 自分のナカにあるモノと、直に触れ合ったあのとき。


 暴力を振るっていい相手というものが実在することを知った。


 この世界を知った。


 そして。フランシスは――そんな私の傍に寄り添うことを選んでくれた。


 妹として。


 それからも色々あったけれど……フランシスはいつでも味方でいてくれて、ずっと仲良く隣にあってくれた。


 頑張って。

 たくさん、失敗しながら。


 それでもなんとか、今まで生きている。


「――これが私の半生です。なんてことの無い、特別ではない人生かもしれないけれど、私にとってはとても長い道のりで、精一杯生きてきた半生でした」


 噛み締めるように述べると、リプカは、星の散りながらも常闇とこやみのように暗い夜を瞳に浮かべてシュリフを見つめた。



「――――ミスティア様。

 意識に滲んだ暗い染みに侵されて、何も考えられなくなる、その前。

 もしかしたら闇に墜ちた最中さなかもずっと、私が考え願っていたこと。

 それが何だか、分かりますか……?」



 

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