”芝刈り”・3

「――あるじからの確認を頂戴しました。その……承諾、ということですが……」

「ありがとう。すぐに取りかかります」


 女執事へ軽く頭を下げると、リプカはすぐに背を翻した。


「ティアドラ様、手伝ってくださいまし」

「あいよぉ。なんなに?」

「私が後方の一人、申し訳ございませんが、ティアドラ様は前方の三人をお願い致します。……四人で間違いないですよね?」

「はいはい。あー、四人で合ってると思うぞ。つーかあいつら、素人じゃねえの?」


 そこまで会話を交わした、次の瞬間――小さな風が巻き起こり、フッと、二人の姿が唐突に消えた。



 ガサリと木の葉を散らす音に――突然背後に現れた一つの気配に、木陰に潜み偵知に従じていた密偵は、ギョっとした表情を露わにし、体勢を崩しながらに振り返った。



 スーツを彷彿とさせる、いかにもなデザインの厳つい服装には似合わぬ所作であった。


「貴方はここでなにをしていましたか? 返答によっては、乱暴を働くことになるかもしれません」


 それは一人の少女に見えた。


 姿としてはそれで間違いがなかったが、もしかすれば、それはものであったのかもしれない。


 不審の立場に座する者への容赦が一つも窺えぬ、決別みたいな敵対宣言を受けて――密偵は、懐からナイフを取り出した。


 それを見ると――少女は、微笑を浮かべた。

 気を高ぶらせるでもない、むしろ「話が早くて助かる」とでも言いたげな、さざ波の一つも揺れぬ静かな微笑み。



 塗り潰したような微笑みだった。



 そんな表情が、密偵の暗い瞳が映した、最後の視界だった――。


  

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