リプカの選択・3
考え続けた。
頭が焼かれるような熱を帯びる程に、様々へ思慮を巡らせた。
だが……思考は一巡して、二巡して――結局、同じところに戻ってくる。
無意識で目を逸らそうとしていた選択へ。
……誰に相談するのが一番良いかなんて、実のところ、初めから気付いていた。
分かっている。ここはクインに頼むことそこが、最適解であることは。
ある分野ではフランシスさえ凌駕した、策士。
セラがあそこまでの衰弱を見せている以上、あまり時間はない。それを考えれば、まさにいま、その知恵を必要とするところである。
だが――クインにだけは……相談するわけにはいかなかった……。
クインは、
それは確信の予期であった。
彼女は変わらず、一貫して、それを、そのことだけを、黒の混じる苛烈な炎が踊る瞳で、真っ直ぐに見据えている。だからこそ、リプカは彼女を信じようと思った。
リプカを戦力として数えた彼女だ、シュリフという埒外の能力者を知れば、取り返しのつかない引き金に触れかねない難へ転じてしまう。
凡百とは違う才を持っているらしい、と曖昧に思っているうちはいいが――。
アリアメル連合をたった一人で震撼させたという、【妖精的基盤症状】の特異を持つ同系の少女だとそのことを知れば、クインは迷わずシュリフへ恩を着せ、利用しようとするだろう。
そしてここが肝心だが――その場合、シュリフへ恩を着せるため、クインはシュリフに協力し、リプカの願いから完全に背を向けてしまう可能性がある。
それも、リプカに気取られぬように。
クインとは随分親交を深められたように思うが、しかし彼女が見据える目的は変わらず唯一である。その裏切りがお国を取り戻す戦いに有益であると判断すれば、離反に躊躇はないだろう。そして、もしそうなれば……クインがシュリフに
魔法としか思えぬ超常現象を自在に起こす超越者と、計り知れぬ未知を相手にした絶望的戦況で常勝を実現した傑物。
そんな異才二人が相手となれば、それこそ、フランシスを増援として呼ぶくらいしか打つ手が無くなってしまう。
――だが。
しかし――もし、リプカが、“戦争に手を貸す”と承諾をすれば……。
クインは……納得するだろう。
不確定要素よりも、さすがに当初の目的であったそちら、確かな確約を優先するはずだ。なにしろリプカがそれを了承すれば、瓦礫菓子よろしく、フランシスとの盟約という最上にして最大限の価値がセットで付随してくるのだから。
元々そこに“確実”を見出していた彼女である、そうなれば、わざわざ面倒を進めてまでシュリフを求める意味がなくなる。それはリプカの心証を悪くする、損ばかりを生む苦心惨憺になりかねないから。
クインにとってリプカの了承は最良の切り札であって、リプカにとってクインの助力は絶望に見た黄金の道筋。
しかし――。
成果か、矜持か。
矜持を捨てれば、己の姿を失う。だが矜持を守れば、手遅れになりつつあるものに気付けぬまま、傍観の結末を迎えることになりかねない。
二者一択――……本当にそれしか道はないのであろうか?
だが、どう考えても、最善は――。
「ぐ、ぐぐぐ……くっ」
悩み、悩み。
悩んだ末。
ふと思い出したのは、ビビの激励であった。
『だからこそ、お前が選び、走った道の先にこそ、きっと、お前の願った幸いがあるのだろう――』
自身が願う、未来――。
『願い故に辿る道を、必然と呼ぶ。昔なにかで読んだ一文だが、私もそう思うよ。道が無数に思えても、案外、辿る道は一つであったりするものだ。その道に潜む変事を避けることに知恵が役立つことはあっても、行き先を選ぶのはいつだって心だ――』
でも、でも――。
今回は、その心の指針をも自らの筋道に書き換える超越者が相手。もしかしたらその道先に広がる景色は結局、全て妖精の指針が示した、変わらぬ顛末であるのかもしれない――。
そんな中で、自分に何ができるのだろうか――?
『誰かに頼りたいときにも迷いなんて見せずに頼ればいい。頼れば案外、多くの人は応えてくれるものだ』
――でも。
私なんかが――行動を――起こせば――。
『――お前が行動しなければ、どうあってもお前が願った未来は訪れないのだから』
『――だから、どんなときも迷わずにあるべきだ』
「…………」
私は何を願ったのか。
私は何の思いを抱き行動に至ったのか。
そして、私は新しく何を思ったか。
それらの答えたる情景。
願いを、祈りを伝えられる未来――その景色を見つめて。
情けなく俯く自分の背を励まし叩いて、もう一度だけ、考える。
そこに至る道筋を。
己の視た景色への道路を、恐れずに。
そして、リプカの取った、選択は――。
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