第八十九.五話:気付き

 そういえば、と。


 セラも、この会場にいたのだろうか?

 会場を俯瞰で展望するうち、今更にふと、それを考えた。


 実はずっと傍にいた、ということがあっても、おかしくなかったが――しかし、案外分からないものだな、と、しみじみ思う。

 表情を隠したくらいで、思うよりも、身柄を隠せるものである。ベンチに同席しての、隣も隣。あそこまで近寄られても、まったく見抜けなかったくらいだ。


 男性のみならず、女性をも大いに魅了する特別に美しい容姿も、目元を隠しただけで案外分からなくなるものなのだなと、一つ知見を得た思いを抱く。


(――――ん?)


 その感慨に、リプカはなにか、引っかかりを覚えた。


 なにか重要なことを忘れているような気がする。


 今更に、何かを思い出しそうな予感があった――。


(…………。――――――――アレッ!?)


 それに気付き、リプカは思わず声を上げそうになった。

 慌てて、いま目の前にある景色を見渡した。


 ――いまは気を和ますゆったりした曲が流れており、踊りたい人は踊り、談話に興じたい者はそうするといった時間であるようだった。

 女性同士で踊る者もあるし、――男性同士で歓談を楽しむ者もある。


 男性同士で。


(あれ……だって…………アレ……?)


 不安な気持ちが胸内に滲むのを感じながら、それを考えた。



 風変わりな婚約騒動の、そもそもの発端。


 ――――アリアメル連合では出生する子の多くが女性として生まれ、特に貴族筋であれば、その確率は九割にものぼり片寄るという怪現象の話は、いったいどこにいったのだろう?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る