再会・1-3

 いくつもの感嘆の音にビクリと宙に浮くほど身を跳ねさせて、慌てて振り向けば、会場内から一人二人ではない大勢が、薄ぼんやりとした明りしかない外へゆっくりと移動してくるところであった。


 何事かと思えば、皆一様に空を見上げていた。


 リプカもつられて夜空へ視線を上げてみれば――。


「わ、わァ――!」


 リプカも思わず感嘆の声を上げて、瞳に幾筋もの輝きを映しながら、その光景に魅入った。


 夜空の藍色に、刹那だけ光の白銀色で線を引く描きが、いくつもいくつも現れては消えて、視界一杯を幻想的な輝きで満たしていた。


 まるで悪戯好きな神様が指の間に筆を挟んで、それを振り回しているかのような、空を埋め尽くす、数多のきら星の筋。

 それは見たこともないほど見事な流星群であった。


 ――美しい景色も望める夜です、きっと、楽しい思い出になると確信しておりますの。


 リプカは招待状に添えられた一文を思い出した。


(これのことだったんだ――!)


「わ、わ、わァ――っ! す、すごいですねっ! ミスティアさ――」


 思わずはしゃいで、シュリフへ語りかけようとしたのだが――。


「ま……?」


 呆けた声が漏れた。


 リプカの隣、すでにそこに――あの少女の姿はなかった。

 またしても、いつの間にか。


 衝動的に立ち上がりそうになったが、周りの目に気付き、なんとかそれを堪えて、ギリギリ不自然にならぬ程度に辺りを見回したが、シュリフの姿はどこにもなかった。


 なぜ、こんな不自然にのだろう?

 不思議を演出したかったのだろうか、そう勘ぐっても仕方のない仕業だ、なんてことを考えながら首を傾げていたのだが――。



 霧のように消えた必要性自体は、そのあとすぐに判明した。



 ――シュリフの姿を追うのを諦め、茫然を浮かべながら夜空の流星をぽつねんと一人、しばらく見上げていると。


 野外へ足を向ける者がまばらになった頃合いだった。

 不意に、断りもなく、リプカの隣の席に腰掛ける者があった。


 ビクリと緊張を走らせ、思わず僅かに後ずさる。いつくもあるベンチから、わざわざ己の隣を選んだその者へ視線を向けた。


 その人はリプカと同じような、表情を隠す目深のローブ服に身を包んでいた。


 どなたかの付き人だろうか? そんなことを思いながら、もしや正体がバレたのではないかという緊迫に迫られながら、声もかけられずじっとその者を見つめていると――。



「――――リプカ様?」



 聞き覚えのある声が、自身の名を呼んだ。


 一瞬呆けて。――ゾワッと血の気が引くのと同時に、全身から冷や汗を噴き出して、凍りついてしまった。


 隣に腰掛けた者が、目深のフードを少しだけ上げた。

 その下にあったのは……とてつもなく整った、男性の颯爽の中にも確かな女性味のある、美しいお顔――。


 ……あれほどまた逢いたいと願っていたはずなのに、思いがけなさの過ぎるその再会に、リプカは――。




「――――――ホ、ホゲェエエエーーーッ!!?」




 思わず、怪鳥のような奇声を発して、生まれてこのかた浮かべたことのない狼狽の様を晒してしまった。


 そのどこかリプカらしい、シリアスをぶち壊すような素っ頓狂な様子に――セラは目を丸くしたのち、次第に表情を和らげて、やがてクツクツと心底愉快そうに、眉を下げた苦笑のような表情で、笑い始めた。


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