リプカの秘密・1-5
シュリフたるミスティアが提示した導きに引っ張られる形で、いつの間にか、『自身が情勢を変え
(それ……本当に、必要かな……?)
シュリフという理外存在の登場。
社交界への導き。
必死に進めていた歩みを止めて、立ち止まるような心境で。
煙を吹いてヒートアップしていた思考を冷静に戻して、今一度、考える――。
(私がアリアメルの地に来たのは、アリアメル連合のしがらみに捕らわれ苦しんでいるように見えた、セラ様の助けになるため……。――そして具体的に言えば第一に、ミスティア様の抱える事情を解決するお力添えになることを目的として、ここへ来たはず)
(目的に立ち返って考えれば――)
(私は幸いなことに、王子方の協力を得ることができた。――そう、いま共にあるのは、国を代表する王子方の、立場も尤なる天下有数の
フランシスならば。
こういったとき、どういった思考を真っ先に練るものか――。
(『私自身の力で戦況を変えることを早急の目標とする』――そこに大部分のリソースを割く意味はあるだろうか……?)
天賦の才の完成された要領を、ずっと近くで観察していた成果が、ここで初めて生きた。
五日という日数を見るなら、王子たち全員からの余力を切り捨てた介添えは必須と見るべきだろう。――天下の剣の余力を切り捨てることは賢明だろうか?
そのことを認識して、もう一度、立ち止まって考える。
(……『未来視』。求め動いた私自身の力量が必要になってくる未来が、彼女に視えていたとして。そのとき――)
(私は何のために――何をするだろうか?)
己に利己の望みを問い掛ける。
――そうして胸内から返ってきた返答は、複雑のない、至ってシンプルな答えだった。
(ただ、セラ様に寄り添うような助けになりたい。そう願った――)
きっとそれが、私に成せるかもしれないこと――。
元々、目的に明確などなかった。あくまで感情論の望み、自分は今回、そのためだけに、五人の王子の力をも借りて駆け出したのだ。
自身の役割を問うというなら、きっと、そこに収まるのだろう。
そして。
このアリアメル連合で、昨晩、セラフィの負った苦悩の正体を知った。
「――三十九日」
リプカは、はっきりと王子たちにそう告げた。
「三十九日。それが時間猶予の、上限いっぱいです」
「三十九日か。その上限の半数日を目標にするとしても、尚余裕があるな」
クインは満足げに頷いた。
アズもクララも、それには深刻な表情を幾分和らげるだけの安堵を見せていた。
三十九日。
ウィザ連合より来たる者たちの手による治療以外で、【シュリフ】という病巣が取り除かれる手段が見つかる、その日数であった。――シュリフの話を信じるならば。
それが限界日数。
セラの心境。国から託された大事を迷いなく捨てるほどの情念。リプカはそれを、痛感して、共感できた。
二人の妹を案ずる、彼女の負った痛切の思いを。
(変え難いと告げられた、大切な人の死という運命……。しかもそれを告げたのは、才の超越を宿した、その意味を隣で知る、答えを担う絶対者――。気丈の様子は察するところなれども、お心内は計り知れない……)
もし仮に、自分の事となれば――シュリフをフランシスと置き換えて考えるのなら、きっと――必ず、他の全てを捨てて妹を救う道を求索するだろう。――たとえ、フランシスにそれは不可能だと告げられたとしても。
(そんな状況下で、セラ様を、お一人にしたくない。――それを理合いに、頼れる王子たちがいてくれる中で、私は、私自身の行動を起こしたい)
リプカは今まさに、目標をはっきりと見定めた。
当然の話、願いの道中で、自身の実力が問われるその時が来るだろう。
然るべき実力を身に付けた自身とは、正直なところ想像しにくい。
だが、それが可能である運命に自分が在ることも、同時に感じ取っていた。
「クイン様、クララ様、アズ様、どうかご指導ご鞭撻をお願いいたします」
頭を下げたリプカに、クインはフンと鼻を鳴らして、厳しい顔を向けた。
「当然だ、感情が死ぬレベルの
「フフン、私も頑張っちゃうよー!」
「私が力になれることがあれば、それに全力致します」
握り締めた拳を胸の前に持ち上げて、明るく宣言するアズ。
頭を下げ、頼もしく、温かな言葉をかけてくれたクララ。
リプカはそんな三人を見つめて、表情を凛と引き締めた。
きっと大丈夫。
抱いたその気持ちを、胸に手を当てて握り締めるようにして――この情の熱をセラの胸内に届けたいと、目を瞑り、強く、願った。
そのために――まずは、道標として示された晩餐会に赴いて、煮詰まった塗炭の環境が生んだコンプレックスを乗り越えなければならない。
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