第三十八話:赤面猛省
――場所は、リプカの自室。
リプカはベッドにうつ伏せで倒れ、枕に顔を押し付けながら、微動だにせず
本当は最後の一人であるクララにも、クインの滞在を伝えなければならなかったが、セラとの対談を終えるとリプカはふらふらと自室へ急ぎ、バタリと倒れてしまった。
息ができるのかも怪しい体勢で、いまは死体然となっている。
(…………)
(ヤッチャッタヨ……)
セラたちに見せた痴態をぐるぐると頭に巡らせながら、底無し沼のような反省に浸かっていた。
これまで人生の中で様々な失態を犯してきたリプカだったが――先程のあれは、その中でも、格別のやらかしだった。
つい、思いが溢れてしまった。
あまりにも、人の温もりに満ちた情感に、触れ過ぎて。
リプカは猛省しながらも――この縁談騒動が始まってから起こった、数々の奇跡を、しみじみ思っていた。
朝起きてから、今日あった良いことは数え切れなかった。アズの親愛に溢れた教え、ビビの友好を示す助け、ティアドラと話せたこと、クララが向けてくれた愛情、セラの優しさ。クインとの諍いさえ、彼女との接点ができたという意味では良い面もあることだった。
自然と、胸が温かくなる。
思いが溢れても仕方がないと受け止める自分もいた。
(……それにしたって)
(嗚咽をあげて……泣くって――)
再びそれを思い返し――リプカは自然に漏れ出る奇妙な唸り声を枕に押し付けながら、死にかけの蝉のようにジタバタと転げ回った。
――セラたちとはあの後、しばらく談笑に興じていた。
セラは変に気遣いの様子を見せることなく紅茶を楽しみながら、自然体でお話ししてくれた。――その心遣いが、あのときのリプカには何よりもありがたかった。
(……不思議なお方)
リプカは、セラのあの雄大たる優しさを思った。
(あれだけ完璧な所作を体現しているのに、その振る舞いに鎧のような厚みは覚えず、表に浮かべる感情も全てが自然に感じる。完成された作法は普通、ベールのようにその人の真意を隠すものなのに――あのお方の場合、どうしてかそこに見るのは、透明な純粋だった。いったい、どんな思いを胸に秘めているお方なのかしら……)
あのときのセラの様子を一つ一つ思い出しながら、リプカは感嘆の息をついた。
(それにしても……大人だなぁ。落ち着いていて、悠然とそこに在るように存在が大きくて。私もいつか、あのようになれるかしら……)
(……………………)
諦めるのは、よくない。
リプカは枕に顔を埋めながら、きゅっと弱弱しく拳を握り込んだ。
――せめて、私がやるべきことを、今、ちゃんとこなそう。
リプカは体をギクシャクと動かしながら立ち上がった。
扉へと向かう。――ふと、セラたちの前でボロボロと泣きだしてしまった事実が唐突にフラッシュバックする。
「あああ………」
赤面し、顔を覆って扉の前に座り込みながら、リプカはもうしばらくの間、心の整理に時間を費やした。
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