姉妹・2

 木立の隙間に挟まるようにして、彼女は身を隠していた。


 隠す気もなく近付く足音に振り向いた彼女は、足音のあるじを認めると、牙を剥くように表情を険しくした。


「そこでなにをしているのですか? ……クイン様」


 敵対心を露わにするクインに物怖じすることなく、リプカは真っ直ぐな視線を投げかけた。


 蝋よりも青白い顔に煌々と灯る、燃ゆる瞳でリプカを睨むクインは、歯軋りの音を立てながら、腹の奥底からの声を漏らした。


「どこにいようと私の勝手であろう。お前に指図を受ける謂れはない。この家の内ですら、まるで冷笑されるためだけに存在しているような、腫れモノ扱いを受けているお前には、特にな」


 最後は蔑むように言いながら、クイン自身も冷笑を浮かべた。


 そんなあからさまな見下しを受けても、リプカは表情を変えることなく彼女の鋭い視線を見つめ続けた。


「他者がどれだけ私を蔑み見下そうと、私が貴方様にお伝えしなければならない忠告が無意味となる理由にはなりません。聞いて頂けますか?」

「ほう? いったいなに――」


 ――クインの言葉は萎むように消えた。


 豹変したリプカの瞳を見つめてしまった瞬間、彼女から一切の余裕が剥奪されてしまったのだ。


「お伝えしたいことはたった一つ」


 手の届く位置まで距離まで詰め、へたり込んでしまったクインを見下ろしながら、リプカは平時と変わらぬ声色で先を続けた。


「貴方様程度に遅れをとるあの子ではないでしょうが、ですがもし万が一、貴方様がフランシスに直接的な害意を向けた場合――私は貴方を決して許しません」


 決して許しません。


 リプカがそれを口にすると、クインの瞳が恐怖で揺れた。


「クイン様。確認致しますが、貴方様がここにいたのは、あともう僅かでここを訪れるであろうフランシスを待ち伏せし、害意を及ぼすため――などではありませんよね?」

「――――ち、違う! 違う……!」


 必死に首を振るクインに、リプカはこくりと一つ頷いた。


「ならよかったです。私の勘違いでした、ごめんなさい。――そう、しかし、今は国政的な理由の心配は、どうか捨ててください。私が貴方を許さないという、そのたった一つの事実にどうか注視してくださいまし。――失礼致しました。また来ます」


 最後に一つ頭を下げて、リプカはクインから離れていった。


 もう十分な距離までリプカが離れると、クインはドレスの裾を握り締めながら俯き、涙の証明も入り混じる唸りのような声を上げていた。


(少しやり過ぎたかしら……。でも、あれくらい言っておかなければ……)


 リプカは背で後ろ側を意識しながら、クインの事情を思った。


 もちろん、彼女に向けた口上の内実自体には、後悔も同情もない。なかったのだが……。

 ――しかしこの短絡的な脅しが、後になってとんでもない事態に繋がり、後日、とてつもない厄介となりリプカを悩ませる事となる。それは運命のレールが切り替わる重要ではあるのだが――それもまた、もう少し先の、別のお話だ。


 

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