第十一話:ミスティア・シィライトミア・1-1

「えーっ! じゃ、じゃあ、本当にその暗殺者をみんな一人残らず、リプカちゃんが倒しちゃったってこと!?」

「ま、まあ……。あの、べつに、噂に聞く『軍隊』とやらの一個軍が攻めてきたというわけではなかったので……」

「いや謙遜になってないし!? こ、この細腕でどうやって!? 私より細いくらいなのに……!」

「ちょっ、ちょ――あの、アズナメルトゥ様――!」

「あ、ごめんごめん……! ていうかリプカちゃん、アズナメルトゥ様じゃなくて、私のことはアズって呼んでって」


 覗き込むように微笑みかけてきたアズナメルトゥへ、リプカはもにょもにょと視線を俯けて表情を赤くした。


「ア……アズ――様……」

「もーっ! んでも、人それぞれで距離感ってあるかぁ。でも、私はリプカちゃんって呼ぼっ! ねね、リプカちゃんいつ私と遊べる? この国も一緒に回りたいし、私たちの国にも招待したいし! あーっ、時間があったらアリアメル連合とかにも旅行しに行きたい! ね知ってる? アリアメル連合の幻想都市シィライトミア領域。私アグアキャナルのほうには行ったことあるけどシィライトミアのほうは行ったことないからリプカちゃんと一緒に行きたい!」

「いいですねっ、是非……っ!」


 気を使わせないよう、なけなしのテンションを総動員して普段の根暗より若干明るい声色で応えながら、リプカは目を回さぬよう必死で会話に喰らい付いていた。


 といっても、行間も埋まったような会話の応答速度はリプカの体感的な話であって、実際は、会話に余裕を持たせることを忘れない、リプカの反応をしっかり窺ってくれる、アズの社交人らしい心配りがあった。


 しかし……。


 独り突っ走るのではなく、こちらを見ながらとても優しく話してくれるアズとの会話は嬉しかったが、同時に……、精神力のゲージがガリガリと削られていくような感覚を、先程から無視できない度合いの強度で感じているリプカだった。


(こ、このままだと……本当に目を回して、倒れてしまう……!)


 身内以外と会話することなどほぼであったリプカである、もう少しゆっくりと話してほしいと一言伝えれば解決する事だったが、話を挟む余裕も見つけられず、またそれを口にする度胸もないコミュニケーション下手を発揮していた。


(でも、友達……友達なのですし……!)


 などと、決断を固めている間に。


 向こう側からこちらに歩いてくる何者かの姿が、談笑に花を咲かせる少女たちの目に留まり、二人は立ち止まった。


「およ? 誰だろう……?」

「存じないお方ですが……、どなたかの付き人でしょうか?」


 その背格好を見て、リプカはそう述べた。


 辺りの景色を見渡しながら歩いてきたのは、リプカよりも背の低い、まだ歳の幼い子供だった。


 ぱちくりと開いた、形の良い瞳がリプカたちを捉えた。そのまま、じろじろと二人のことを観察しながら、こちらに向かって歩いてくる。


(女の子……)


 それを思った瞬間、リプカの中で、ある直感が警鐘のを鳴らした。


 艶やかな青色の髪を揺らしながら、少女は二人の真下で立ち止まり、高い位置にある二人の視線を見上げた。

 リプカは自身の中で鳴る直感に切迫を覚えながら、その子の全身像を見つめた。


 本当に鮮やかな青色で、柔らかに舞い風に遊ばれるロブ丈の後ろ髪は、空がなびいているようだった。

 ぱちくりと開いた目には幼さが宿り――少女は大人びてはいたが、とても婚約できるような歳には達していないように見受けられた。が……。


(お、お国の文化の違いについては、この短時間で身に染みていますし……)


 あり得なくはない。

 そんなことを考えながらリプカは、意外にも交流術の玄人であるアズよりも先んじて、膝を折り目線を合わせて少女に話しかけた。


 


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