戦後政略の渦中・2

「縁談……ですか?」


 リプカは目をぱちくりさせ、信じられない告げ事を口の中で転がした。


 真昼間から父に呼び出され、何事かと身構え赴いてみれば、難しい顔をした父から告げられたのは、予想もしなかった題目であった。


 縁談。

 婚約破棄最速記録を持つ少女にである。しかもそれは奇跡的なたった一つの申し入れなどではなく、このたび国を跨ぐほどの広くから、多くの良い話が寄せられた、らしい。


 ――しかし考えてみれば、それは当然の話でもある。

 何といってもリプカはあの、フランシス・エルゴールの姉であるのだから。


 つまり。


(……フランシスと強い関係を結びたい各国の代表家が、こぞって私に婿を寄こしにくるというわけですか……)


 リプカは今更に、戦後の政治騒乱は他人事ではなかったことを悟った。


 ――思い出すのは、ハーレヴァンに冷たく蔑まれ続けた苦い記憶。暗い毎日。

 内心で頭を抱えながら、思わず憂鬱なため息を漏らした。


 リプカが僅かに浮かべた暗雲の表情に父はギロリと目を剥き、それを目ざとく咎めると、いつものように滔々と、親とは思えないさげすみ事を口にし始めた。


 何もかもが粗末なお前だが、何の因果かフランシスの姉であるのだから――。

 出来損ないのお前といえど役割があり、それは喜ぶべきことであり決して嘆いてよいことではなく――。

 お前といえど役割があるのだからそれを――。

 そもそもお前は――。

 いつも――。

 昔から――。

 だいたい――……。


 無駄に長いさげすみがついにリプカの人間性を否定する段階に入ったところで、リプカは父のこめかみに膝蹴りをお見舞いし、今度は現実でも頭を抱えながら、静まり返った部屋を後にした。



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