幻想終末世界掲示板と絶望の資料ー内面ヘタレな超生物が世のブラックに抗う文明復興物語ー

序章 あの日のテレビ番組

『本日はグレイ帝国がマク地帯への介入を強めている件につきまして、専門家の方をお招きして質問していきたいと思います。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『早速ですが、グレイ帝国の動向はどうなっているのでしょうか？』

『前回と同様に、マク地帯の外縁部で軍の部隊が活動しているようですが、魔鉱石が発見されたのはマクでもかなり中央寄りなため、もし彼等が資源を得ようとしても本格的な侵攻とならざるを得ません。ですがそれは我が共和国と決定的な亀裂を招くため、とりあえずこちらの動きを観察するための、いわば牽制のようなものでしょう』

『ではその外縁部から、徐々に制圧地を広げて行く事は考えられませんか？』

『グレイ帝国側のマク外縁部はかなり複雑な地形な上、これといった資源もありません。我が国との開戦のリスクを犯してまでその手段を取るかと言われると、ハイリスクローリターンになるため考えにくいというのが私の意見です』

『ですが日に日に帝国の野心は明らかになっています。マク地域の為にも共和国は何かしらのアクションを起こすべきではないでしょうか？』

『ええ私もそう思います。そもそもの発端は、条約で定められていた同地域の資源調査を、帝国が強行したことが原因で起こりました。これは重大なルール違反であり、更には軍を動かしての挑発など許されるはずがありません。そんな帝国に引くことが許されない以上、何かしらの保護条約がマク地域と締結される必要があるでしょう』

『そうですね。では、全面的な戦争になる可能性はありますか？』

『ゼロではありませんが、限りなく低いと言っていいでしょう。最終爆弾が両国で開発されてからというもの、直接的な戦火は交えていません。戦争があったとしても、第三国を介した代理戦争といった具合でしょう。ですが残念ながら帝国は大きすぎます。被害も馬鹿にならないでしょう』

『今後はどのようになると思いますか？』

『そうですね。こちらも軍を動かしていますし、お互い手を引いてマク地域への不干渉と緩衝地であることの再確認。それが現実的でしょう。推測になりますが、これからは軍備拡張戦争と言いますか、どれだけ軍を巨大化させながら経済を維持し続けるという争いになるともいます。すいません、素直に経済戦争と言い直します。それと前回の世論調査は帝国への好感度が相変わらず10％を切っていますが、だからと言って向こうも我々も、誰も絶滅戦争など望んでいませんからね』

『そうですね』

旧魔法暦2962年　10月27日11時59分30秒　"終末戦争"開始30秒前のサルベージされた資料ログ

◆

『本日は臨時の特別コーナーとして、軍から専門家の方をお招きして、ファル共和国の動向についてお尋ねしたいと思います。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『まず初めに、共和国がマク地域内の複数の場所で、秘密の軍事施設を建造しようとしているのは事実なのでしょうか？』

『はい間違いありません。資源調査と銘打ってはいましたが、実際の所は地中からの探索魔法により、ファル共和国がマク地域内で軍事活動をしているのではないかと調査するのが目的でした。そして恐るべきことに、まず行っているのは間違いないと思っていた我々をして、予想だにしない程の数と規模の秘密施設が各地に存在していたのです』

『つまり彼らは明確な条約違反を行っていたのですね？』

『ええ。この規模から言ってマク地域の行政が知らないわけがないでしょう。彼等は結託しているのです。これでは緩衝地の意味が全くありません。それで今回軍は、同地域周辺への増援を送る事になりました。これに何故か非難しているのがファル共和国なのですが、私に言わせれば鏡を見てから出直してくれとしか言いようがありません』

『その秘密施設ですが、我が国への攻撃の為でしょうか？』

『いえ、その可能性は低いでしょう。ミサイルサイロや軍の駐屯地としては、規模がかなり小さいことまでは分かっています。あの地特有の純度の高い魔鉱石で、高燃費なエネルギーの実験を行っていると思われます』

『それでは我々は後れを取っているのですか？』

『残念ながらそう言わざるを得ません。ですがご安心ください。場所は全て把握しているため、地図に印をつけてここを我が軍は狙っていると教えれば、彼等は喜んでマクの一部を我々に割譲するでしょう。何と言っても先に条約を違反したのは彼等なのですから』

『今後はどうなると思いますか？』

『そうですね。マクの事はとりあえず置いておくと、出来るだけお互い高度な軍を維持しながら、経済的に破綻しないかの争いになると思います』

『それを聞いて安心しました。てっきり全面戦争になるかと』

『ははは。悔しくはありますが、我々が出来ない様に、彼等も出来ないでしょう。最終戦争の引き金を引くなど誰も』

『そうですね。ぞっとします』

旧魔法暦2962年　10月27日11時59分40秒　"終末戦争"開始20秒前のサルベージされた資料ログ