第144話  裏側(アリシア視点)



刑務所に入り、毎日の粗末な食事に運動、そして読書をしていつも通り汚ならしい寝床で眠る。

刑務所に入る前はいくら貧乏とはいえ、こんな生活ではなかった。

少ない使用人がベッドを整えて、当たり前のように眠る。


それが今では、もう貴族の欠片もない生活。


あのブラッドフォードのせいで破産し、リディアはブラッドフォードに守られている。

この差が理不尽で堪らない。


爵位も高く、資産家で、あり得ないほどの美丈夫な男が選んだ女はリディアという女。


あの女を呪おうとしたせいでこんなことになったのに、リディアはぬくぬくとブラッドフォードに愛されていると思うと、黒い感情がまた涌き出てくる。


新聞にも、ブラッドフォード公爵の結婚が載り、二人が寄り添っている絵姿にまた腹が立つ。


そして、今日はアレクセイ殿下の結婚式。

王族と出会う機会はなかったけど、今夜は違った。


刑務所内が騒がしい。

あちらこちらから悲鳴や争う音がして、何事かと受刑者達も騒いでいる。


そして、禍々しい男が私の牢の前にやってきた。


「お前がアリシアか?」

「…だったら何?」

「オズワルド・ブラッドフォードの女を呪おうとしたと聞いた。もう一度やらないか?ここから出してやるぞ…」


出してくれる!

この私にふさわしくないこの牢から!


「目的は?」

「オズワルドに怨みがある。オズワルドの女がいなければあの男はさぞ落胆するだろう。隙も出来るはずだ」


リディアにも私と同じ目に合わせられる!

ここから出られ、リディアもメチャクチャに出来るならなんでも良かった。


私は迷わず、このテレンスという男と脱獄した。


しかし、リディアには何故だか呪いがかからない。

何度やっても跳ね返ってくる。


「もっと真面目にやれ!」

「やっているわよ!でも、かからないのよ!あの女はきっと異常者よ!」


テレンスもおかしいと、不思議で理解が出来ない。


「なら直接リディアに止めを刺すわ!」

「…アレクセイの結婚式なら、臨時の使用人も沢山雇う。入城証を奪いやすいだろうから、使用人の入城証を奪い城に入り込め。俺は城の魔水晶を破壊して、オズワルドを始末する」


入城証には魔法がかけられており偽造が出来ない。


テレンスと打ち合わせをし、城に入り込もうと、臨時の使用人を脅し入城証を手に入れ、リディアの侍女に化けようとすることにした。

リディアの侍女の入城証ならリディアが来る控室に入れるから。


そして、入城証を脅し取った使用人にリディアの侍女の入城証を取って越させようとした。


その使用人はわざとリディアの侍女に熱いお茶を渡し、お茶を溢させ、リディアの侍女が着替えの隙に入城証を奪おうとしたが、お茶が熱すぎてリディアの侍女はお茶を溢し、指に怪我をしたと聞いた。


そして入城証は奪えず、反対に不審に思われて、リディアの侍女に臨時の使用人が気付かずに後をつけられてしまっていた。


つけられているなんて思わず、私は臨時の使用人の入城証でなんとか城に入り込んだ。


私は城の部屋で誰かのドレスを拝借し、着替えて出ると、城はテレンスが予定より早く騒ぎをおこし、その上私を気にする者はいないはずだった。


実際、頭からショールを被っているのに誰も声をかけないし、止めない。


だが、リディアの侍女は違った。


「ウィル!あの人よ!」


リディアの侍女が誰かを連れて来て、振り向くとウィルと呼ばれたあの時の従者の男がいた。

振り向くとウィルと呼ばれた従者の男は私の顔を見て叫んだ。


レストランで一度会っていたが、こんな姿だからきっと私がアリシアだとすぐにわからなかったのだろう。

頭にショールを被って、顔がこんなだからかもしれない。


「…あれは呪い返しの痣だ!マリオンは使用人を通報しろ!」


私の顔を呪い返しの痣とすぐにわかるのは魔法使いだ。

この従者も魔法使いだったのだろう。


「待て!!」


私は人混みに紛れて舞踏会場に逃げた。

人混みなら、魔法は使えないだろうから。


そして、舞踏会場ですぐにリディアとオズワルド・ブラッドフォードを見つけた。





「最後の一つの魔水晶は回収出来なかったがこれだけ魔力が集まれば、オズワルドと言えども負けはせん!」


テレンスはそう言っていたのに、結局はオズワルド・ブラッドフォードに勝てず、私もオズワルド・ブラッドフォードにもリディアにも負けた。


オズワルド・ブラッドフォードの闇に包まれて、返ってきた呪いが急加速しているのがわかる。

目の前の死霊は私の恐怖を煽り、私の時間は止まってしまった。






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