第142話 闇と刻はまどろむ 8



オズワルド様は残った魔力でアリシアに止めをさした。

そして、オズワルド様の身体全部の体重が私にのし掛かってきた。


背中からは血が流れ止まらない。


「オ、オズワルド…様…?」


オズワルド様の紫の瞳は瞼を閉じられて見えない。


「…嘘…起きて下さい…!オズワルド様…?」


私に全体重を乗せ、倒れ込んだままのオズワルド様は動かない。


「いや…ライア様!オズワルド様を助けてください!お願いします!」


私では助けられない。

必死でライア様にお願いするが、ライア様はオズワルド様に触れると首を降った。


「…俺の魔法は癒しです。死者は回復出来ません…」

「まだ死んでません!まだ温かいんです!早く助けて下さい!早く…助けて…!」


涙を流し助けを求めるが誰も助けられない。

私は非力だ。


「オズワルド様…嫌です…誰か、助けて…一人にしないで、オズワルド様…」


私には時間を戻す力もない。

腕でしっかりとオズワルド様を抱きしめるがただ冷たくなるだけの身体に一緒に逝きたくなる。


オズワルド様はいつも私を助けてくれた。

それなのに私には何も出来ない。

それでも、諦めきれなかった。


「…刻の精霊!!出て来てください!お願いします!刻の精霊!!」


叫ぶ私にライア様と意識を取り戻していたヒース様は戸惑っていた。


「リディア様…何を…?」


「刻の精霊!!」


そして一つ、光がぼやけるように現れた。


ライア様もヒース様も信じられないと、呆然としている。

そして、オズワルド様の言う通り、刻の精霊はいつも私の近くにいたんじゃないかと思う。


そんな様子を見たヒース様は、ライア様に私達を見られないように隠せと、言っていた。

ヒース様は刻の精霊が人に見られることを懸念したのだろう。


ライア様も、刻の精霊が現れたことを察して、私達が魔法騎士達に見られないように薄い水の壁を作った。


どうやら、向こうからは光の屈曲を利用してか、見えないようになっていた。


「刻の精霊!オズワルド様を助けて下さい!お願いします!私達の時間を戻して下さい!」


必死で懇願した。

オズワルド様を助けられるのは、刻の精霊しかいないのだ。


(………私の祝福を受けているとはいえ、願うなら代償が必要だ………)

「欲しいものがあるなら、何でも差し上げます…だから、オズワルド様を助けて下さい…」

(…時間を戻すにしてもリディアの魔力なら数分しか戻らないし、ブラッドフォードの魔力もなくてはオズワルドも一緒には戻れない)


魔法使いじゃない私には、オズワルド様と一緒に戻るだけの魔力がないのだと突きつけられる。

私がオズワルド様みたいに魔力が高ければ、オズワルド様の分の魔力も補えただろうに。


「リディア様…オズワルド様はもう魔力はありません…死んでしまえば…」


ライア様にそう言われても、私には諦めることは出来ないし、私だけが戻ってもオズワルド様が刺された後なら意味はない。


だから、確実にオズワルド様と一緒に戻らないといけない。


それに、オズワルド様の魔力なら私のピアスにある。

オズワルド様が普段から、魔力を補充してくれていた。

お守りにもなるからと。


「オズワルド様の魔力ならあります。私のピアスの魔水晶にはオズワルド様が定期的に魔力を補充してました」


私はピアスを外し、凭れているオズワルド様を離さず、刻の精霊に差し出した。


(…これだけの魔力なら、代償にリディアの時間も頂く。戻る分だけだが…)

「いりません。本当なら私はもう死んでいたのですから…」

(…よいのか?)

「オズワルド様がいないなら、私も今すぐに死にます。あなたに何もあげません」

(…戻るのはほんの数分だけだ…)


刻の精霊は私の気持ちを汲んでくれたように言った。


「刻の精霊…ありがとうございます…」

(リディアまで死ねばブラッドフォードの子は絶える…それではカレンも悲しむ…)


刻の精霊の光に包まれる中、冷たいオズワルド様を決して離さないように抱きしめ、あの時はオズワルド様はこんな気持ちだったのだろうか、と思った。


絶望の中一縷の望みをかける。


「オズワルド様…また一緒に戻りましょうね…」


冷たいオズワルド様の唇を重ね、まどろむように私達の時間はまた戻っていった。





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