第30話 私がいいのは、

「リディア、オズワルドはどうしました?」

「今、ご用で少し席を外していますわ」


今は、レオン様は客人。

我慢するのよ!と自分に言い聞かせ、いつものように猫を被った。


「…リディア、先月の夜会でお会いしたことを覚えていますか?」

「はい、挨拶をしましたね」

「その時、少しだけお話をしたことは?」


確か、友人が来るまでと少しだけ世間話程度の話はした気もするけど、私にとったらもう7ヶ月前のことだ。

覚えているわけない。

その時はレオン様と婚約するなんて全く思わなかったし。


「すみません、全く覚えていませんわ」


ニコリと笑顔で、お前は眼中にないという気持ちで、言った。


レオン様は、苦虫を噛んだような表情になった。

もしかして、私が覚えていますよ、と嬉しそうに寄るのを期待していたのかと思った。


「…本当に、オズワルドでいいのですか?あの男は、女好きと有名です。相手にしていた女も一人ではありませんよ。浮気だって平気でする男ではないのですか」


お前が言うな!

浮気者はお前だろ!と声を大にして言いたい!

だが、今のレオン様にはアリシアのことは身に覚えのないこと。

言えば、私がただの無礼者になる。


大体、あの時間が戻る前のレオン様の誕生日パーティーでは本当に惨めと虚しさで一杯だった。

それを、いくらアレク様に言われたからと言っても、一緒にいてくれたのはオズワルド様だ。

オズワルド様がいなければ、私はあの会場で一人だったのだ。

どれだけ、オズワルド様に救われた気持ちになったか。

そして、私が倒れた時、飛び込んで来たのはオズワルド様だ。

オズワルド様だけが、私を助けてくれたのだ。


そして、それはレオン様にも誰にも一生わからない。


「確かに、オズワルド様は女好きで手が早いかもしれませんが、浮気はしません」


私はレオン様の目を見据えて、はっきりと言った。


「私をいつも助けてくれるのはオズワルド様だけです」

「…何か困ったことがあるなら、私が助けにっ」


レオン様に困ってますがね!

このおバカ!


私は、レオン様の言葉を遮り続けて言った。


「それに、私はオズワルド様がいいのです。オズワルド様と一緒にいたいのです」


レオン様は私の言葉にたじろいだようになった。


そして、邸の陰からオズワルド様が出てきた。

建物で、オズワルド様が来ているのは全く見えなかった。


私はレオン様を無視してオズワルド様に駆け寄った。


「オズワルド様!」

「リディア、どうした?」

「寂しかったです。早く行きましょう」


オズワルド様にしがみつくと、そっと抱き寄せてくれた。


「ああ。そろそろ行くか」


オズワルド様が、チラッとレオン様を見ると、レオン様は体調が優れないので狩りは遠慮すると言い、邸に早足で戻って行った。


玄関先でアレク様とレオン様がかち合い、どうした?とアレク様が声をかけても、レオン様は無言で止まることなく邸に戻り、見えなくなった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る